【目的】レンバチニブは、進行性肝細胞がんの1次治療で承認された経口マルチキナーゼ阻害薬である。しかし、用量制限毒性となる重篤な有害事象の発現や腫瘍縮小効果の個体差が大きいことが臨床上問題となっている。したがって、これらを予測するバイオマーカーの同定は喫緊の課題である。そこで本研究では、レンバチニブの至適濃度の同定を目的として、レンバチニブの血中濃度と副作用・治療効果の関連について、後方視的観察研究を実施した。【方法】2018年8月から2020年5月までの間で、滋賀医科大学医学部附属病院で、レンバチニブを投与され、血中濃度測定の同意を得た肝細胞がん患者28名を対象とした。レンバチニブは、60 kg以上では12 mg、60 kg未満では8 mgで開始した。レンバチニブのトラフ濃度と、grade 3(CTCAE v. 5.0)以上の副作用、および腫瘍縮小効果・無増悪生存期間の関連を解析した。【結果・考察】Grade 3以上の副作用を発現した患者(15名)のレンバチニブの血中濃度は、grade 2以下の副作用を発現した患者(13名)と比較して、有意に高値であった。腫瘍縮小効果が判定できた23名のうち、responder(最大縮小率が完全奏功、部分奏功、あるいは安定であった患者)は21名、non-responderは2名であった。Receiver operating characteristic解析の結果、grade 3以上の副作用を発現する有意なカットオフ値は、71.4 ng/mL[Area under the curve(AUC); 0.86、p < 0.05、95%信頼区間:0.71-1.00]であった。一方、responderの有意なカットオフ値は、36.8 ng/mL(AUC; 0.95、p < 0.05、95%信頼区間:0.85-1.00)であった。さらに、レンバチニブ濃度が36.8-71.4 ng/mLの患者(11名)の無増悪生存期間は、36.8 ng/mL未満の患者(4名)、あるいは71.4 ng/mL以上の患者(13名)の患者と比較して、延長する傾向を認めた [中央値13.3か月(36.8-71.4 ng/mL) vs. 3.5か月(36.8 ng/mL未満) vs. 7.8か月(71.4 ng/mL以上)]。【結論】本結果より、レンバチニブの至適濃度は36.8-71.4 ng/mLとなることが示唆された。