【目的】経口第Xa因子阻害薬の一つであるアピキサバンは薬物代謝酵素CYP3A4/5、薬物トランスポーターのP糖蛋白質(P-gp)及び乳癌耐性蛋白質(BCRP)の基質である。CYP3A5、P-gp及びBCRPをコードするCYP3A5ABCB1及びABCG2の遺伝子多型は、これらの基質となる薬物の体内動態に影響を及ぼすことが知られているが、アピキサバンの体内動態に影響を与えるか否かについては意見が分かれている。そこで本研究ではアピキサバンの定常状態におけるトラフ血漿中濃度(C0h)に及ぼす、CYP3A5ABCB1及びABCG2の遺伝子多型の影響について解析を行った。
【方法】弘前大学医学部附属病院に入院している心房細動患者を対象とし、アピキサバン服用後7日以上経過した時点において、内服12時間後に採血を行なった。CYP3A及びP-gpの活性に影響を及ぼす薬物を併用中の患者は解析から除外した。C0hはUPLC-MSMS法を用いて測定した。CYP3A5*3ABCB1 c.1236C>T, c.2677G>A/T, c.2482-2236G>A, c.3435C>T及びABCG2 c.421C>Aの遺伝子多型はTaqmanプローブを用いたリアルタイムPCR法により解析した(倫理委員会承認番号:2018-011)。
【結果】96名の心房細動患者が本研究の対象となった。単変量解析の結果、アピキサバンの1回投与量(D)で補正したトラフ濃度(C0h/D)は各遺伝子多型間で有意差は認められなかった(全てP>0.05)。また、C0h/Dを目的変数としたステップワイズ法による多変量解析においても、これらの遺伝子多型は説明変数としてエントリーされなかった。一方、クレアチニンクリアランス及び血清アルブミン値は、C0h/Dの独立変数であった(partial R2 = 0.155, P<0.001及びpartial R2 = 0.121, P<0.001)。
【考察】クレアチニンクリアランスおよび血清アルブミン値が低い心房細動患者は、アピキサバンの血中濃度が上昇するリスクを有することが明らかとなった。アピキサバンの体内動態を予測する際は、CYP3A5ABCB1及びABCG2の遺伝子多型よりも、腎機能や肝機能が指標になり得ると考えられる。