【目的】直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant, DOAC)は定期的な凝固能検査が不要であるという利点を有し、国内で4種のDOAC(apixaban, edoxaban, dabigatran及びrivaroxaban)が臨床使用されている。しかし、現在DOACは治療効果を判定する上で有用な指標が存在しないため、DOAC服用中患者の血漿中薬物濃度を測定することで、治療効果や副作用の評価に有用となる可能性がある。よって、全種類のDOACを網羅的かつ簡便に定量できる手法を確立できれば、臨床的に有意義であると考えられる。そこで本研究では、LC-MSを用いてDOAC4剤の血漿中薬物濃度の同時定量法を検討した。
【方法】血漿サンプル0.3 mLに内部標準物質としてApixaban-d3 (10 ng) を添加し、OASIS μElution plateで固相抽出後、測定サンプルとした。移動相は5 mM ammonium acetate (A) 及びacetonitrile (B) 、流速0.3 mL/min とし、測定0-10分でA:B(3:1)→(1:9)となるように直線的に変化させた。カラムはZORBAX Eclipse Plus C18を使用した。検量線は内部標準法を用いて5回測定し、真度、精度及び直線性について評価した。また回収率、マトリックス効果及び検体の保存安定性についても評価を行った。
【結果・考察】Apixaban, edoxaban, dabigatran及びrivaroxabanは、クロマトグラム上でそれぞれ3.8, 4.1, 1.0及び3.9分に検出され、1測定あたり10分であった。検量線はいずれの薬物においても1-500 ng/mlの範囲で良好な直線性を示し、定量値の真度及び精度はそれぞれ理論値の<±9.2%及び<8.8%であり、回収率及びマトリックス効果の精度はそれぞれ<12.4%及び<13.7%であった。また-30℃の保存条件下で4週間の安定性が認められた。さらに、本定量法を用いてDOAC服薬中の患者検体の血漿中濃度測定が可能であった。本研究の結果、医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションガイドラインにおける基準に合致したDOACの血漿中濃度の同時定量法を確立することができた。