【目的】炎症性腸疾患(IBD)である潰瘍性大腸炎(UC)およびクローン病(CD)に対するインフリキシマブ(IFX)の治療効果には、個体差があることが報告されている。そのため、IFXを適正に使用するためには、投与開始後早期より患者個別にその治療効果を予測し、最適な投与設計を行う必要がある。そこで本研究では、薬物動態学および薬力学(PK / PD)理論に基づき、IFX投与開始後早期に患者毎の血清中IFX濃度および治療効果指標の時間的推移を定量的に予測することで、IBD患者個別にIFXの最適な投与設計を行うことについて検討を行った。
【方法】IFX投与開始後早期において、PK / PDモデルおよびマルコフ連鎖モンテカルロ法を用いたベイズ推定により、患者毎にPK / PDパラメータを求め、その血清中IFX濃度および治療効果指標の時間的推移を予測した。そして、維持投与期において血清中IFX濃度および治療効果指標の予測値と実測値が一致するかについて検討を行った。また、治療効果指標の寛解基準に基づき、各患者の最終評価時点における治療効果の有無を予測できるかについて評価した。
【結果・考察】IBD患者(CD患者8名、UC患者7名)から得られたデータを用いて解析を行った結果、血清中IFX濃度(Pearson product-moment correlation coefficient, 0.700; p<0.0001, 68時点)、UC患者(0.740; p=0.001, 16時点)およびCD患者(0.785; p<0.0001, 25時点)の治療効果指標において、予測値と実測値との間に有意な高い相関が認められた。また、各患者の最終評価時点(day 115からday 203)における治療効果の有無について、15例中14例(93.3%)で予測することができた。
【結論】本研究は、PK/PD理論に基づいて、IFX投与開始後早期に患者毎の血清中IFX濃度および治療効果指標の時間的推移を定量的に予測したものであり、本研究の結果、IBD患者個別にIFXの最適な投与設計を行うことができる可能性が示された。