【目的】腎移植後の免疫抑制療法においては、免疫抑制薬の薬物血中濃度モニタリングに基づく投与量調節が実施されているが、移植腎組織内濃度を測定した報告は少ない。そこで本研究では、タクロリムスおよびエベロリムスの腎組織内濃度測定法を確立するとともに、腎組織内濃度と血中濃度や病理組織における拒絶反応との関連性について検討した。
【方法】LC-MS/MS(LCMS-8050, Shimadzu)を用いて、タクロリムスおよびエベロリムスの腎組織内濃度を同時に分析する測定法を確立し、FDAのガイドラインを遵守して分析バリデーションを行った。次に九州大学病院で腎移植を受けた患者を対象とし、書面により同意が得られた14症例のプロトコル腎生検で採取した余剰組織を用いて、タクロリムスおよびエベロリムスの腎組織内濃度を測定した。一方、タクロリムスおよびエベロリムスの血中濃度は化学発光酵素免疫測定(CLIA)法および電気化学発光免疫測定(ECLIA)法にて測定した。本研究は、九州大学病院臨床研究倫理委員会による承認を得て実施した。
【結果・考察】分析バリデーションの結果、選択性、日内・日差精度、真度、回収率、マトリックス効果および安定性はFDAの基準範囲内であった。またタクロリムスおよびエベロリムスの腎組織内濃度は、それぞれ21.0-86.7 pg/mg tissue、33.5-105.0 pg/mg tissueであり、投与量で補正した血中トラフ濃度と投与量で補正した腎組織内濃度には正の相関関係(P<0.0001, r = 0.8901; P = 0.0479, r = 0.5429)を認めた。一方、これらの腎組織内濃度は、病理組織における拒絶反応の有無とは相関しなかった。以上の結果から、腎移植患者におけるタクロリムスおよびエベロリムスの腎組織内濃度は血中トラフ濃度と関連することが示唆された。
【結論】本研究では、LC-MS/MSを用いたタクロリムスおよびエベロリムスの腎組織内濃度測定法を確立し、それらの腎組織内濃度が血中トラフ濃度と相関することを明らかにした。