【目的】血液悪性腫瘍患者は易感染性の宿主が多く、深在性真菌症予防目的にアゾール系抗真菌薬が投与されることが多い。本邦ではフルコナゾール(FLCZ)、イトラコナゾール(ITCZ)、ボリコナゾール(VRCZ)、ポサコナゾール(PSCZ)の4種類が承認されているが、イサブコナゾール(ISCZ)も臨床開発段階にある。これらの薬剤およびITCZの主代謝物であるヒドロキシイトラコナゾール(ITCZ-OH)の体内動態は個体間・個体内変動が大きく、特に造血幹細胞移植患者では腸管の粘膜障害によりバイオアベイラビリティが低下している患者が多い。そのため、治療薬物モニタリングによる個別投与設計が重要であるが、薬物毎に異なる測定系を用いた場合、臨床現場では煩雑であり解析までに多くの時間を要する。本研究ではこの課題を克服するために、超高速高分離液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析を用いてハイスループットかつ高感度な6成分(VRCZ、ITCZ、ITCZ-OH、FLCZ、PSCZ、ISCZ)の同時測定系を確立することを目的とした。
【方法】前処理は96-well MCX μElution plateを用いた固相抽出法を選択し、内標準物質は各薬剤の重水素体を使用した。バリデーションは生体試料分析に関するFDAガイダンスに準拠し実施した。なお、本研究は大分大学医学部倫理委員会による承認を得て実施した(承認番号:1799)。
【結果・考察】各薬剤の保持時間は1.85~2.43分であり、6分/検体の短時間での測定が可能であった。各薬剤の回収率は≧74.9%であり、Matrix effectは濃度間に差異が認められなかった。日内変動の真度(-13.91~11.69%)および精度(CV≦10.66%)、日間変動の真度(-5.92~7.77%)および精度(CV≦10.87%)ともにFDAガイダンスの基準を満たし、直線性(r2≧0.9912)も良好であった。凍結融解に対する安定性およびオートサンプラー内に24時間放置した際の安定性は良好であったが、72時間放置の安定性はFLCZとITCZがFDAガイダンスの基準を満たさなかった。健常人検体を用いて特異度を評価したところ、各薬剤の保持時間に妨害ピークは見られず、高いS/N比(≧12.3)を確認した。血液悪性腫瘍患者12例を対象に血漿中濃度を測定したところ、全て検量線範囲内であり、ISCZを除く薬剤の臨床適応性が確認された。
【結論】ハイスループットかつ高感度な6種のアゾール系抗真菌薬および代謝物の同時測定系の開発に成功し、臨床応用可能であることが明らかとなった。