【目的】ファビピラビルは新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症を適応症として国内で製造販売承認を取得した抗ウイルス薬である。ウイルスのRNAポリメラーゼを選択的に阻害してウイルス複製を停止させることから,新型コロナウイルス,重症熱性血小板減少症候群ウイルス,エボラウイルス等のRNAウイルスに対しても効果が期待されている。ファビピラビルの薬物動態の特徴として,反復投与により消失に飽和が生じ,線形のコンパートメントモデルでは予測できない濃度推移が認められた。そのため,反復投与時の薬物動態を予測して投与量の決定に利用可能となるようなモデルの構築を検討した。
【方法】日本及び米国の健康被験者,肝機能,腎機能障害者の血漿中濃度データ (226名,6229ポイント) を用いて,NONMEM (version 7.4) により解析した。非線形な薬物動態を生じさせる原因として,mechanism based inhibitionの寄与が知られているアルデヒドオキシゲナーゼ (AO) の代謝への関与と考えられるため,AO代謝に対して阻害を受けると仮定したモデルをベースに,共変量は,体重をアロメトリー関数としてCL/F及びVd/Fに組み込んだ。年齢については,経口からの吸収速度定数 (ka) に影響すると仮定した。人種・民族については,米国人及び日本人でVmax (AOの最大消失速度) 及びKdeg (AOの生成速度) での違いを検討した。更に,肝機能障害者の曝露量の上昇をモデル式に加えるとともにスパース採血での感染症患者の予測も試みた。
【結果・考察】モデルに含めた共変量のうち,年齢が35歳未満と60歳超でkaの低下が認められた。日本人に対して米国人は酵素の消失速度及び生成速度に相違が認められ,1日目の負荷投与量の後に維持用量で濃度推移が一定になった。日本人の維持用量 800 mgは米国人の 600 mg投与と曝露量が類似し,AOのKdegに違いがあるためと考えた。更に,重度肝機能障害者は,血漿中からの消失が遅延し,スパース採血での感染症患者の予測も可能であった。
【結論】本モデルを使用することで,年齢,人種,特殊集団の特性を考慮した薬物動態の予測が可能となり,投与量の決定に有用であった。