【目的】薬物代謝酵素CYP2B6遺伝子の多型性は、抗HIV薬をはじめ多くの薬物代謝反応の個人差を引き起こすと考えられている。CYP遺伝子多型の位置や頻度には民族集団差が存在するため、塩基多型に由来するアミノ酸置換等の酵素活性に及ぼす影響の解析は、日本人集団で同定されたバリアントに関して行うことが重要である。そこで本研究では、東北メディカル・メガバンクの全ゲノム情報を活用して、39種類のCYP2B6遺伝子多型バリアントの機能変化を解析し、薬物代謝活性に及ぼす影響を検討した。【方法】野生型CYP2B6のcDNA配列中に遺伝子多型を導入したバリアント発現ベクターを作製し、ヒト胎児腎臓由来293FT細胞中に各バリアント酵素を発現させた。次に、還元型一酸化炭素吸収差スペクトル測定法によりCYP2B6のホロP450含量および抗CYP2B6抗体を用いたウェスタンブロット法によりホロとアポP450の総量を定量した。酵素機能変化に関しては、抗HIV薬エファビレンツ (EFZ) を基質として一定時間反応させ、代謝物である8-水酸化体をLC-MS/MSを用いて定量し、酵素反応速度論的パラメータを算出した。さらに、3次元ドッキングシミュレーションモデル解析により酵素活性変化の分子メカニズム解明も試みた。【結果・考察】EFZ代謝活性測定において、39種のバリアントのうち15種で酵素活性の消失を認めた。また、酵素反応速度論的パラメータが算出できた24種のバリアントのうち、野生型CYP2B6と比較して、6種で酵素活性が有意に低下し、6種で有意に上昇することが明らかとなった。酵素活性が消失したバリアントのほとんどで、ホロP450含量が定量限界以下であった。また、酵素活性が大きく変化したバリアントでは、ホロP450含量の低下やアミノ酸置換部位周辺のループ構造およびヘリックス構造の変化が認められた。【結論】本研究により、野生型を含めた40種のCYP2B6バリアントについて、それらの酵素活性変化を明らかにした。EFZ服用患者において、酵素活性の消失あるいは低下が生じるCYP2B6遺伝子多型を有する場合、中枢神経障害等の副作用発現リスクの増大や治療中断に繋がる可能性が考えられる。今回の知見がCYP2B6遺伝子多型を考慮した個別化薬物療法を実施する上での情報基盤となり、さらなる臨床応用が期待される。