【目的】有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)1Bは内因性物質や薬物の肝細胞への取り込みを媒介する輸送担体である。OATP1Bの輸送機能を反映する内因性マーカーとして、コプロポルフィリン群やビリルビンなどが知られるが、近年、胆汁酸硫酸抱合体がOATP1Bの内因性マーカー候補となることが報告された。しかし、ヒト血漿試料における異性体の存在や胆汁酸硫酸抱合体のLC分離時の金属カラムへの吸着等が定量上の課題であるため、ヒト血中濃度分析に関する報告は限られている。本研究では、胆汁酸硫酸抱合体であるグリコケノデオキシコール酸硫酸抱合体(GCDCA-S)およびグリコリトコール酸硫酸抱合体(GLCA-S)のヒト血漿中濃度について、メタルフリーPEEKカラムを用いたLC-MS/MS法による同時定量法を開発することを目的とした。
【方法】アセトニトリル水を添加し、除タンパク処理を行った血漿試料を分析に使用した。分析カラムにはメタルフリーPEEKカラム(InterSustain AQ-C18)を採用した。移動相には37%アセトニトリルおよび0.1%ギ酸を含む水溶液を用い、流速0.3 mL/min、カラム温度60℃の測定条件下でLC分離を行った。米国FDAガイダンスに基づき、選択性、直線性、真度、精度、マトリックス効果、回収率、キャリーオーバー、安定性およびヒト血漿試料への適用性について評価した。
【結果・考察】上記の測定条件にて、血漿試料に含まれる異性体を含む他の内因性物質とのGCDCA-S、GLCA-S および内部標準物質のピーク分離は良好であり、全ての物質が10分以内に検出可能であった。また、LC分離にメタルフリーPEEKカラムを用いることで、硫酸抱合体の分析カラムへの吸着が抑制され、ピークのテーリングと感度が改善した。検量線においては、いずれの測定物質も、2.5-1500 ng/mLの濃度範囲においてr>0.99の良好な直線性が得られた。分析単位内および単位間における平均真度は理論値の±15%以内、精度は15%以下であった。マトリックス効果およびキャリーオーバーは認めらなかった。室温保管下において血漿中の測定物質の安定性も確認された。また、健常成人男女8人における血漿中GCDCA-SおよびGLCA-S濃度は、それぞれ、56-437、8.9-320 ng/mLであり、検量線の濃度範囲はヒト血漿試料へ適用する際に妥当であると考えられた。
【結論】本定量法により、簡便な前処理によるヒト血漿中GCDCA-SおよびGLCA-Sの同時測定が可能であった。