【目的】バロキサビル マルボキシルの代謝物であり本薬剤の活性体であるS-033447の薬物動態(PK)は人種差があり,アジア人と非アジア人で投与24時間後濃度に違いが認められている.
バロキサビル マルボキシルは小腸,血液,肝臓中のarylacetamide deacetylase (AADAC) によって速やかにS-033447に加水分解され,S-033447はUGT1A3によりグルクロナイドに代謝される. AADACは遺伝子多型が知られており,AADAC*3は活性が低く日本人と白人で発現頻度の違いがあることが知られている.また,UGT1A3も遺伝子多型が知られており,UGT1A3*2はUGT活性を強め,更に,日本人と白人で発現頻度の違いがあることが知られている.
本研究の目的は, S-033447のPKの人種差における遺伝子多型の影響を検討することである.
【方法】第1相臨床試験 (12試験,N=315) で同意が得られバンキングしたDNAに対して遺伝子解析を実施した.PKパラメータに対して,AADACとUGT1A3の遺伝子多型及び,体重,人種を固定効果とする共分散分析(ANCOVA)を実施し,S-033447のPKの個体間変動における遺伝子多型の影響を検討した.
【結果・考察】AADACの多型頻度は人種間で差がなく,AADACの遺伝子型間でPKパラメータに差はなかった. UGT1A3について,UGT1A3*2のアレル頻度はアジア人と比較し白人/黒人で高かった.また,血中濃度推移から,*1/*1と比較して*1/*2では血漿中濃度の消失が早く,*1/*4は消失が遅い傾向がみられ,AUCにおいても*1/*2 は 低値を,*1/*4高値を示した.更に,体重及び人種差の影響を入れたモデルを用いてANCOVAで解析した結果,*1/*2, *1/*4におけるUGT活性の違いがみられた.一方,UGT1A3の同じ遺伝子型中でアジア人と白人のPKパラメータを比較すると,白人はアジア人と比較してCmax及びAUCが約40%低値を示したことから,S-033447のPKの人種差はUGT1A3活性の差 (遺伝子多型の頻度の差) のみでは説明できないと考えられた.
【結論】本研究により,S-033447のPKの人種差は,AADACの遺伝子多型は関係しないこと,そして部分的にUGT1A3の遺伝子多型に起因することが明らかとなった.