【目的】Cytochrome P450(CYP)3A活性を反映する内在性基質として4β-hydroxycholesterol(4β-OHC)が着目されている。個体間のCYP3A活性を横断的に評価する場合、血漿中4β-OHC濃度または4β-OHCを総コレステロール(TC)で除した4β-OHC/TCが用いられるが、その優劣は明らかになっていない。また、近年、4β-OHCの立体異性体でありコレステロールの自動酸化のみで生成する4α-hydroxycholesterol(4α-OHC)で4β-OHCを除した4β-OHC/4α-OHCが提唱されているが、この有用性も詳細に検討されていない。本研究では、一般成人におけるCYP3A5遺伝子多型の情報を用いて、個体間のCYP3A活性を横断的に評価する場合、血漿中4β-OHC濃度、4β-OHC/TC及び4β-OHC/4α-OHCのいずれの指標がより有用かについて検討した。
【方法】全国多施設共同コホート研究に参加した一般成人410名を対象にした。血漿中4β-及び4α-OHC濃度の測定はUHPLC-MS/MS法、TCの測定は酵素法で行った。ゲノムワイド関連解析の結果からCYP3A5*3の有無を判定し、CYP3A5*1/*1(n=23)、*1/*3(n=166)及び*3/*3(n=221)の3群に分類した。3群間の血漿中4β-OHC濃度、4β-OHC/TC及び4β-OHC/4α-OHCをKruskal-Wallis検定及びDunnの事後検定で比較した。なお、本研究は明治薬科大学及び京都府立医科大学の研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:3023、ERB-C-1384)。
【結果・考察】血漿中4β-OHC濃度は3群間で有意差が認められた(p<0.0001)。事後検定の結果、血漿中4β-OHC濃度は、CYP3A5*3/*3群と比較してCYP3A5*1/*3群でのみ有意に高かった(p<0.0001)。4β-OHC/TCは3群間で有意差が認められ(p<0.0001)、CYP3A5*3/*3群と比較してCYP3A5*1/*1群p=0.033)及びCYP3A5*1/*3群(p<0.0001)で有意に高かった。4β-OHC/4α-OHCは3群間で有意差が認められ(p<0.0001)、CYP3A5*3/*3群と比較してCYP3A5*1/*3群でのみ有意に高かった(p<0.0001)。4β-OHC/TCは、血漿中4β-OHC濃度と比較してCYP3A5の遺伝的背景の影響をより鋭敏に反映すること、本研究の対象においては、4α-OHCによる補正は不要であることが示唆された。
【結論】4β-OHC/TCは、個体間のCYP3A活性を横断的に評価する指標として最も有用であることが示唆された。また、一般成人のように酸化ストレスの影響が少ないと考えられる場合は、4α-OHCによる4β-OHCの補正は不要であることが示唆された。