【目的】医薬品の副作用の中で特異体質性のものは発症予測が難しく、医薬品の安全対策上重要である。特にStevens-Johnson 症候群(SJS)、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、及び薬剤性過敏症症候群等の重症薬疹は、副作用被害救済制度において最上位を占め、予測・予防型の対策が求められている。特定の原因薬について、重症薬疹の発症と関連する遺伝子多型が日本人で報告されているが、いまだ臨床応用されていない。その理由として最も大きなものは、簡便な測定系がないために臨床研究がなされていないことである。本研究は、高尿酸血症治療薬のアロプリノールについて、重症薬疹の発症と関連が報告されているHLA-B58:01と連鎖不平衡にある一塩基多型(SNP)に関し、重症薬疹発症予測のための迅速診断に用いうる簡便な核酸クロマトグラフィー法を構築することを目的とした。【方法】当研究室は、厚生労働省や日本製薬団体連合会の協力の下、全国より重症薬疹発症患者(SJS/TEN症例)の血液及び副作用情報を収集するシステムを構築している。研究倫理審査委員会の承認の下、重症薬疹発症患者の全血からゲノムDNA を採取し、HLA型解析およびSNPジェノタイピング解析(TaqMan法)を行った。さらに、重症薬疹患者試料を用いて、アロプリノールによる重症薬疹の発症に関連するHLAと絶対連鎖不平衡にあるSNP(rs9263726G>A)に関し、アレル特異的なPCR増幅を行い、核酸クロマトグラフィー法を開発した。【結果・考察】アロプリノールによる重症薬疹患者試料31例のうち、15例がHLA-B58:01を保有しており、同アレルのヘテロ接合患者は全て、rs9263726の遺伝子型はヘテロ接合型(G/A)であった。一方、HLA-B58:01を保有していない16例の遺伝子型は、野生型ホモ接合型(G/G)であった。野生型と変異型のそれぞれのプライマーに異なるDNAタグ配列を付加してPCR増幅を行い、クロマトチップに展開したところ、ライン状に固相化された相補配列オリゴDNAとプライマーに付加したタグDNAの強いハイブリダイゼーション反応によりPCR増幅産物がトラップされ、rs9263726の各塩基(GまたはA)に対応してチップ上に異なる位置でバンドを検出した。この核酸クロマトグラフィー法の結果は、TaqMan法による結果と完全に一致した。【結論】本研究により開発した核酸クロマトグラフィー法は、アロプリノールによる重症薬疹発症の予測診断に有用である可能性が示唆された。