【目的】治験薬管理業務には責任医師および分担医師をはじめ、治験コーディネーター(Clinical Research Coordinator、以下CRC)、臨床開発モニター(Clinical Research Associate、以下CRA)等、多くの職種が関わっている。福岡大学病院(以下、当院)では二重盲検試験における薬剤割付番号の発番はCRCが、治験薬の調剤および調製は薬剤師が、併用薬確認はCRC、薬剤師が共に行うなど、各場面において各々が職能を活かしてインシデント防止に努めている。今回、薬剤師によるインシデント回避例を経験したことを機に、当院での実態調査を行った。【方法】2020年9月から2021年6月までの10か月間に当院で発生した治験薬管理業務でのインシデント回避例を収集し、内容によって分類した。【結果・考察】期間内におけるインシデント回避例は12件あった。内訳はCRCの割付番号連絡間違い4件、処方間違い2件、処方漏れ1件、併用薬処方関連1件、治験薬使用期限切れ1件、その他運用に関するもの3件であった。いずれも治験薬担当の薬剤師がミスを発見し、治験薬交付前にCRC等へ指摘し、インシデントを回避した。使用期限切れの1件は、患者来院が延期になったことをCRCからCRAに報告しておらず、使用期限内に投与できる治験薬が搬入されていないケースであった。このケースでは薬剤師が定期的に行っている治験薬使用期限チェックにより、使用期限の問題に気付き、患者来院前に新しい使用期限の治験薬を搬入できたため、インシデントを回避できた。【結論】薬剤師による割付番号や処方内容、来院スケジュール等の確認は治験の信頼性確保につながった。また、インシデントの内容によっては治験からの逸脱となる可能性もあったため、患者にとっての不利益も回避できた。薬剤師が治験薬管理業務に関わることにより、インシデント回避に貢献でき、より安全で安心できる医療を患者へ提供することができるとともに、治験におけるデータの信頼性確保に貢献できると考える。