【目的】患者の安全を確保するための市販後安全対策に有用な事前情報の活用を目指して,日本における新薬の承認前後に得られる情報と市販後の安全性措置との関係を分析し,その因果構造について検討した.
【方法】日本において2005-2015 年度に承認された新薬333 品目を対象に,市販後の安全性措置(PMSEs)に関する情報及び承認前後に得られる情報を抽出した.PMSEsとして,初回承認後5 年以内に厚生労働省が発出した添付文書の「使用上の注意の改訂指示通知」の回数を抽出した.承認前後に得られる情報として次の7 種類の情報を抽出した:疾患領域;臨床試験における日本人被験者数;日本人に対する用量設定試験;日本と欧米間の承認時期の差;薬剤の新規性;市場での予測患者数;初回承認後の追加承認の回数.承認前後に得られる情報とPMSEsとの関係を推定するため,負の二項回帰分析を実施した.また,各変数間の因果構造を検討するため,構造方程式モデリングの一種であるパス解析を実施した.
【結果・考察】負の二項回帰分析より,PMSEsに関係する因子として,抗悪性腫瘍薬(Incidence Rate Ratio (IRR)=1.70, p=0.0058),市場での予測患者数(IRR=1.32, p=0.0024)及び日本と欧米間の承認時期の差(IRR=0.88, p=0.019)が示された.このような安全性リスクの高い新薬は,特に注意して安全対策を行う必要があると考えられる.
パス解析より,新薬は市場での患者数が少ないと新規性が高い傾向にある一方(standardized path coefficients (β)=-0.36, p<0.001),市場での患者数が少ないとPMSEsは講じられづらいことが示された(β=0.16, p=0.003).一般に,新規性の高い薬剤は市販後に未知の副作用が起こりやすいと考えられる一方,添付文書を改訂するのに必要な量の有害事象が短期間で発現しないことが示唆された.このため,早期の安全性エビデンスの構築が必要であると考えられる.
【結論】日本において市販後の安全性措置に関係する承認前後に得られる情報として,抗悪性腫瘍薬,市場での予測患者数及び日本と欧米間の承認時期の差が示された.一方,新規性の高い薬剤は市場での患者数が少ないことで潜在的な安全性リスクが検出されづらい可能性が示唆された.市販後の安全対策では,これらの事前情報を活用して潜在的な安全性リスクの高い新薬に注力することが有用であると考えられる.