【目的】近年、医薬品の同時開発・承認のために多くの国際共同治験が行われており、国際共同治験を経て承認される新薬の数も増えている。ICH-E17ガイドラインの趣旨にもあるとおり、国際共同治験においては単一の実施計画書の下で同時期に知見が集積するため、人種・地域間差の情報を効率的に収集することができ、また、観察された結果に解釈を与えることが(他の方法と比較して)容易となる。本研究では、日本(人)が参加した国際共同治験における日本(人)と外国(人)の有害事象発現状況を比較し、発現状況に違いが生じる理由を探った。【方法】2012年度から2020年度に日本で承認された新有効成分含有医薬品のうち、承認申請のための国際共同治験(複数回行われた場合は最も被験者数が多く、実施相が後ろの試験)が実施された品目について、試験デザインの詳細、発生した有害事象の発現数(日本人・外国人別)を収集した。全ての有害事象の発現例数を取得できた試験を分析対象とした。主な有害事象について、日本人の発現率から外国人の発現率を引いたリスク差をメタアナリシス(変量効果モデル)により推定した。【結果】痛みに関わる主観性の高い有害事象が日本人と比較して外国人における発現率が高いことが示された。特に頭痛は有意に外国人における発現率が高かった(リスク差:-0.04、p<0.01)。日本人では鼻咽頭炎の発現率が外国人に比べて高い傾向が見られた(リスク差:0.12、p<0.01)。臨床検査値に裏付けられるような客観性の高い有害事象(例:血中トリグリセリド増加)の多くは、日本人と外国人との間で発現率に差が見られなかった。観察された差は、試験の疾患領域(特に抗がん剤で差が顕著になる傾向)、患者構成(欧米人とアジア人の比率)などによって異なることが分かった。【考察・結論】複数の疾患領域の国際共同治験において、痛みに関わる有害事象を含むいくつかの有害事象の発現率に日本人と外国人との間で差が見られることが分かった。これらの差は内因性要因と外因性要因の両方を反映する可能性が示唆された。