【目的】海外で承認され使用されている医薬品が、日本で承認されて使用できるようになるまでの時間差またはその遅れをドラッグラグという。日本におけるドラッグラグは、国際共同試験の促進や審査期間の短縮によって縮小されているが、その根本的かつ最大の要因は開発着手の遅れである。本研究は日米欧三極における新薬の承認状況から、日本における新薬承認取得の遅延に繋がる要因分析を目的とした。これに基づき、ドラッグラグの縮小に向けた方策を考察する。
【方法】米国および欧州の双方で承認された後、2010~2020年に日本で承認された新有効成分含有医薬品を研究対象とした。次に日米欧三極の各規制当局における公開情報から、当該医薬品の開発・承認にかかる関連情報を抽出した。これに基づき、研究対象医薬品が欧米ともに承認を取得した時点から日本で承認されるまでの時間を応答変数とし、1.類似薬の有無、2.薬効分野(抗悪性腫瘍薬であるかどうか)、3.欧米で承認を取得した企業の日本法人の有無、4.オリジネーターと日本で承認を取得した企業との一致性、5.日本で承認を取得した企業の国籍(内資・外資)、6.予測販売額(100億円以上・100億円未満)、7.ピボタル試験(開発の中核となった臨床試験)に伴う分類という7つの変数を説明変数としてCox回帰分析を行った。なお回帰分析に先立ち、各説明変数間の相関関係を確認するため、クラメールの連関係数を算出した。解析にはStatsDirectを用い、p値が0.05未満の場合を有意な関連ありと判断した。
【結果・考察】研究対象医薬品数は115品目であった。クラメールの連関係数を算出した結果、各説明変数間に相関関係はなかった。Cox回帰分析の結果、4・5・6・7という4つの説明変数で統計学的に有意な関連が認められた。これはオリジネーターと日本の承認取得企業が一致していない新薬、日本の承認取得企業が内資企業である新薬、日本で追加試験が実施された新薬、予測販売額が100億円未満である新薬において、日本での承認取得が遅れることを示唆している。他企業に開発権を譲渡する際には、早期の情報共有を含むタイムロスの最小化が求められる。内資企業のグローバル開発については、その経験値を蓄積するとともに日本での同時上市を見据えた開発戦略が望まれる。
【結論】ドラッグラグの更なる縮小に向けて、薬事規制、保険制度などのさまざまな視点から対応策を検討していくことが重要である。