【目的】
医薬品の安全性に係るリスクを適正に管理するため、2013年4月から「医薬品リスク管理計画(RMP)」の策定が求められている。承認時のRMPには開発段階で認められたリスク(安全性検討事項)、市販後早期における安全性監視活動、リスク低減のためのリスク最小化活動の情報がまとめられる。RMPには「危ない」有害事象が優先的に記載されると考えられるが、RMPの作成者(企業)が現実に何を「危なさ」の判断の基準・根拠としているのかは明らかではない。本研究では、どのようなプロファイルの有害事象が安全性検討事項に記載されやすいかを分析し、有害事象のリスクのどのような側面がRMP作成において重視されているのかを探索した。
【方法】
2016年から2018年に承認された新有効成分医薬品(109品目)のRMPの構成情報、及びその新有効成分医薬品のうち2016年から2017年に承認された抗がん剤(12品目)のRMPと承認審査情報をPMDAのホームページから収集し、新有効成分の医薬品のRMPに含まれる記載項目の品目ごとのばらつきを確認した。抗がん剤を分析対象品目とした治験(検証試験)で発現したすべての有害事象(計:5637個、有害事象の種類:2196個)について、それらが安全性検討事項の「重要な特定されたリスク」として記載されているかを目的変数とし、それら有害事象の発現状況(発現率、重篤度など)及び薬剤の特徴(承認取得企業、類薬の有無など)を説明変数としたロジスティック回帰分析を行った。
【結果・考察】
新有効成分医薬品のRMPを構成する項目は薬剤の種類(薬効分類)ごとに異なることが確認された。抗がん剤を分析対象品目とした治験で発現した有害事象のうち、発現率が高い有害事象、治験中止を導いた有害事象、重篤な有害事象は「重要な特定されたリスク」としてRMPに記載されやすかった(p<0.001)。また、類薬が有る薬剤、希少疾病用医薬品、内資企業の薬剤で、有害事象が「重要な特定されたリスク」としてRMPに記載されやすいことが分かった(p<0.001)。
【結論】
企業が作成するRMPの内容(記載項目)には薬剤の種類ごとに相当な違いがあること、リスクとして記載される有害事象は重要な検証試験の結果に基づいて選択されていること、薬剤の置かれている競合・規制環境によってリスクの記載内容が異なることが明らかとなった。