【目的】日本と欧州で希少疾病用医薬品の指定を撤回された医薬品の実例から比較を行い、開発の現状や今後開発を進めていく上での課題を明らかにすることである。
【方法】制度の開始時点から2020年12月31日までに日本と欧州で希少疾病用医薬品に指定された後に撤回された医薬品の中で、日本は厚生労働省HPの医薬品第一部会、第二部会議事録から、EUはEMAのHPから撤回理由を特定できる医薬品を対象とした。文書の内容を調査し、撤回の理由の分類、集計を行った。
【結果・考察】日本で対象となった薬剤は、開発中の撤回が42品目、販売承認後の撤回が9品目であった。そのうち、「有効性」が撤回理由である品目が1番多く26品目(50.1%)、続いて「医療上の必要性がなくなった」ために撤回された21品目(41.2%)、「安全性」の問題で撤回された6品目(14.3%)であった。EUで撤回理由が公表されていた薬剤は、販売承認時の指定見直しで撤回された20品目であった。そのうち、「有効性」が撤回理由である品目が最も多く13品目(65.0%)、続いて患者の利益につながる「Patient care」が理由の10品目(50.0%)、指定要件の「有病率」が不適の9品目(45.0%)であった。指定取り消しの理由として1番多いのは日本、欧州ともに「有効性」の問題であった。欧州の撤回理由の2番目は「Patient care」であり、患者目線を重視していると考えられ、それは審査委員会の患者代表枠があることからも言える。日本と欧州の違いとして、欧州では販売承認時の指定見直しとその審査の厳しさがあり、指定数の多さから承認後に受けるインセンティブへのハードルが高く設定されていると考えられる。
【結論】希少疾病用医薬品の指定要件が異なるため一概に比較できないが、日本は指定数に対し承認される割合が高く、EUでは指定数が日本の4倍多いにも関わらず承認された品目は少なかった。承認される割合が低い欧州の現状の制度は開発促進策がうまく機能していないように思われる。一方で、日本の場合は指定要件に開発可能性があるため、それを示すための臨床試験など指定以前の開発段階における負担が重いが、それに対する支援・補助がないことなどが希少疾病用医薬品開発の障害になっている可能性があり、制度の課題だと言える。今後、希少疾病用医薬品の開発をより促進していくために制度設計を含めた見直しが必要であろう。