【目的】医薬品・医療機器等安全性情報報告制度(以下、本制度)により、医薬関係者は医薬品等によって発生する健康被害等の情報を厚生労働大臣に報告することとされている。全ての医療機関及び薬局等が対象であるが、医薬品の国内副作用・感染症症例報告に占める医療機関報告は少ない。本制度の理解度が副作用等報告の経験に強く関連するという先行研究から、大学生時代における教育が重要と考えられるが、医学部における教育実態は明らかではない。本研究では、全国の医学部を有する大学を対象に、本制度に関わる授業を明らかにすることを目的とした。
【方法】本研究は、医薬品等規制調和・評価研究事業(AMED)『医薬関係者による副作用報告の質向上に向けた情報連携のあり方の研究(代表:眞野成康)』の一環として実施された。全国の医学部を有する大学に、電話、メール、ホームページからの問い合わせ、または紙媒体の郵送により調査を依頼し、本制度に関わる授業科目とその内容、および自由記載により本制度の医学教育における改善点と意見を収集した。
【結果・考察】全82大学のうち25大学から当該授業科目の内容が回答された。その他、11大学から該当する授業がない旨の回答、4大学から回答拒否、および42大学からは未回答(現在郵送調査による再依頼中)であった。本制度に関わる講義をした科目は、薬理学が9件、臨床薬理学・薬物治療学が8件、衛生学・公衆衛生学が5件、医療安全・管理学が5件と多く、概論や実習を含むその他25件の科目も挙げられた。これら授業のコマ数を各大学で集計した結果、授業コマ数は1~2コマが17大学と最も多かった。履修学年は4年次が最も多く、5年次以上で回答された科目を実施している大学は3大学のみであった。医薬品安全性情報報告書を実際に「記載させる」と回答した科目は1件のみであった。意見の自由記載欄では、副作用発生の臨床薬理学的なバックグラウンドや薬害歴史の理解の重要性に言及した回答が比較的多く見られ、その他、報告に関わる実習の増加、医学部コアカリキュラムの改定、または5~6年や卒後の教育の充実などが具体的な提案として挙げられた。
【結論】医学部における本制度の講義は、主に薬理学および臨床薬理学・薬物治療学で実施されていた。実際に報告を経験させる授業は限られており、また、5~6年次における授業も不十分と考えられた。