【背景】学生からの「薬理学の教科書は何が良いですか」という問いに明確に答えるのは難しい。教科書毎に特徴があり、何を目的とするかによって異なると考えられる。その判断基準として、承認された薬を全て記載するのは不可能としても、有害事象の多い薬の学習は一つの判断基準と考えた。【方法】医薬品服用時に発生する有害事象は独立行政法人医薬品医療器機総合機構により医薬品副作用データベースとしてまとめられ、データセットが提供されている。本研究では、2004年4月から2021年6月のデータセットを用い、有害事象の被疑薬の頻度の高い薬物が、薬理学の教科書に記載されているかどうかを調査した。医薬品副作用データセットは症例一般テーブル、医薬品情報テーブル、副作用情報テーブル、原患者テーブルから構成されている。医薬品情報テーブルの被疑薬のうち医薬品(一般名)に記載されている品名を数え上げ、頻度リストを作成した。また、聖マリアンナ医科大学で推奨している薬理学の教科書のうち、発行年度が新しい3つの教科の索引にある薬物をそれぞれの薬物リストとして作成し、作成した頻度リストとの比較を行った。また、教科書の総ページ数が異なるため、ページあたりのデータとして解析した。【結果・考察】有害事象報告が多い順に、オキサリプラチン、プレドニゾロン、フルオロウラシル、メトトレキサート、リバビリン、タクロリムス水和物、ベバシズマブ(遺伝子組換え)で20,000件以上あった。10,000件以上は19種であった。また、プレドニゾロンは被疑薬の以外の記載も含めると最多の出現頻度であった。頻度リストの上位1.0%で報告の40%、6.7%で80%を占めた。上位1.0%、6.7%との一致率(各%/冊)は教科書A、約56、約35、教科書B、約98、約80、教科書C、約94、約76であった。ページあたり(各%/ページ)では教科書A、0.15、0.10 、教科書B、0.15、0.12、教科書C、0.15、0.12であった。教科書Aは頻度リストとの一致が他の2つの教科書よりも低かったが、ページあたりでは差が小さくなっていた。また、頻度リストの対象を広げると、いずれの教科書も一致率が悪くなった。【結論】いずれの教科書も、有害事象報告の多い医薬品を高いベースでカバーしており、有害報告の学習には差はなかった。