【目的】医療機関と保険薬局の連携ツールとして服薬情報提供書(tracing report : TR)が活用されている。TRを用いた情報提供の質向上と利用促進により医薬品適正使用を推進するために、一般社団法人福岡市薬剤師会(市薬)と九州大学大学院薬学研究院臨床育薬学分野の共同事業として、研修会の開催や活用事例の提示などを行っている。そこで今回は、TRの活用状況や薬剤師の認識の変化について明らかにすることを目的として、2019年と2021年にアンケート調査を実施した。また、2017年と2020年に提出されたTRを収集し、TRによる情報提供や処方提案について解析した。
【方法】市薬会員薬剤師に対してGoogle formを用いたアンケート調査を2019年11月19日~12月20日と2021年1月26日~3月12日の2回実施し、TRによる医師への情報提供の有無、直近一年間のTR送信回数、TRの有用性の認識について比較を行った。また、2017年1月1日~12月31日と2020年1月1日~12月31日の期間に市薬会員薬局から診療施設に提出された成年患者のTRのコピーを収集し、TRの記載内容を10項目に分類(重複可)した。処方提案があったTRについては、処方提案前後の処方内容を調査し、処方提案採用率を算出し、その採用率などについて2017年と2020年で比較した。
【結果・考察】TRによる医師への情報提供、直近一年間のTR送信回数、TRの有用性の認識において、2021年は2019年と比較し、いずれも増加していた。一方、有用性を認識できていない理由として、「医師からの反応や返答がないから」や「処方変更につながらないから」といった回答が多く見られた。TRの記載内容は、10項目中8項目において2017年と比較して2020年の方が増加していた。また、処方提案があったTRの割合は23.9%から32.2%へと有意に上昇し、最も提案につながりやすい内容は、2017年と2020年ともに「薬剤に関する要望」であった。この結果は、薬剤師がより幅広い内容を提供できるようになっていることを示唆していると考えられる。
【結論】TRに対する薬剤師の認識は高くなり、処方提案型のTRが増加していることが明らかとなった。しかしながら、今後は有用性の認識ができていない理由に対するアプローチが必要であると考える。