【目的】 多くの医育機関や医療機関で、研究公正や倫理に関する教育が行われているが、その多くは義務的、受動的な講義であるため、学習効果は高くないと考えられる。我々は、医療従事者が臨床研究スキルを学習する中で、能動的に研究公正や研究倫理のセンス及び技術を身につけるためのAMED事業に取り組んでおり、それらの実践について報告する。【方法】 一般医師の現状を分析するため、全国の一般医師を対象とした横断研究を実施した。継続的に実施している合宿形式の臨床研究トレーニングでは、講義、討議、ハンズオンを組み合わせ、臨床研究実施をシミュレーションしている。シミュレーション中に、研究公正・倫理に関する事例検討を組み入れ、研究公正・倫理への関心や技能を主体的に身につける能動的研究倫理学習プログラムを開発し、終了後に教育効果について評価した。【結果】 2年間に7回の臨床研究トレーニングで能動的研究倫理学習プログラムを組み入れた。受講者は非大学病院所属が57%と多く、自施設で研究倫理に関する教育を受けていた受講者は大学病院88%に対して、非大学病院58%と有意に低かった(p<0.0001)。本プログラムによって、研究公正や倫理に対する意識が変わったと回答した受講者は76%であった。 一般医師1100人を対象とした横断研究では、自施設で研究倫理に関する教育を受けていた回答者は大学病院99%に対して、非大学病院90%と有意に低かった(p=0.0003)。研究公正や倫理に関わる諸課題のうち、最も意識が低い課題は「研究組織の人間関係(16%)」であった。論文を作成する際に他の論文からコピー&ペーストをした経験のある者(コピー&ペースト)は11%、論文の作成・校閲に関与せずに共著者になった経験のある者(ギフトオーサーシップ)が11%であった。研究公正の学習動機が受動的であった医師は、独立して有意にコピー&ペースト及びギフトオーサーシップに関連した。 これらの現状を元に、研究公正・倫理に関する事例や能動的研究倫理学習プログラムの改訂、更に参加者が自施設で教育を展開するための教育実施マニュアルを開発している。【結語】 能動的に臨床研究スキルを学ぶ臨床研究トレーニングを通じて、多くの診療現場の医療従事者が研究公正や研究倫理を意識した研究活動を展開できるようにしていきたい。本内容は広く医療従事者に紹介するため、当学会のみならず複数の学会で報告している。