多くの研究者から「どんどん規制が複雑になって研究がやりにくくなっている」との声を耳にする。国内の臨床研究に関する規制は、臨床研究全体を対象としたものからは始まっておらず、遺伝子組み換え技術等新たな技術がもたらす生命倫理・安全性等の問題に対応するために整備された1994年の遺伝子治療臨床研究に関する指針に始まる。疫学研究に関する倫理指針が制定されたのはそれから9年後の2002年、臨床研究に関する倫理指針が制定されたのは10年後の2003年であった。臨床研究全体を包括する規制の制定が後になったのは、憲法23条が保証する学問の自由によるところが大きく、学問の自由を確保されている研究者は、一方で専門職としての自主規制・行動規範の遵守が求められる。米国の研究公正局は、研究公正をResearch integrity may be defined as active adherence to the ethical principles and professional standards essential for the responsible practice of research.と定義している。日本は前述のように、新たな技術から生命倫理・安全性等の問題に対応するために規制が始まったことから、臨床研究の規制においては倫理の問題であるという研究者の認識が強いのではないだろうか。研究公正は、倫理教育や研究不正の防止教育だけでは十分ではないと考える。なぜなら研究不正と研究過失(honest error)は異なるが、現象としては同一の場合があり、これらの判別は故意によるものか、悪意のない誤りなのかに基づく。しかし、多くの場合にはその判別は困難である。現象が同じである以上、研究不正を重視した狭義の研究公正のみならず、研究成果の信頼性を損なう行為をいかに排除した試験を実施するか、広義の研究公正教育が重要となのではないだろうか。実際のモニタリングや監査の現場で確認されたエラーから、研究公正の現状を共有したい。