新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)の流行が始まって2年近くが経過している。人々の生活や医療の状況などが大きく変化する中で、流行を鎮静化するための方策としてワクチンや医薬品の研究開発に大きな期待が寄せられてきた。新型コロナは感染拡大地域が広いため全世界的にワクチン接種を進める必要があり、市民によるワクチンの受容が早くから検討されてきた。私たちの研究班では、新型コロナをひとつの例として、新興感染症流行時のワクチンや医薬品の使用及び研究開発に関する市民意識を明らかにし、今後の研究開発への示唆を得ることを目的とした一般市民対象の意識調査を行った。
対象は、日本在住の20~79歳の男女とし、ワクチンについてたずねるグループ(ワクチン群、1,569名)と医薬品についてたずねるグループ(医薬品群、3,980名)とした。対象者は、調査会社の登録モニターから、日本の人口動態を参考に、性別・年代・居住地域で割付を行って抽出した。調査項目は、新興感染症流行時のワクチン、医薬品の利用意向、研究開発への協力などに対する考えに関することとした。分析に際して、若年層(20~49歳、730名)と高年層(50~79歳、839名)に分けて検討した。調査時期は2020年12月下旬であった。本発表では、ワクチンに関する調査結果を中心に報告する。新型コロナワクチンを「接種する(必ず接種する+おそらく接種する)」と回答した人は56.5%であった。高年層の方が若年層より「接種する」と回答した割合は有意に高かった。また、新型コロナワクチンを「接種しない」と回答した人の主な理由は、「副反応が心配だから」であった。新興感染症流行時のワクチンや医薬品の臨床試験の重要性は約9割で認識されている一方、ワクチン臨床試験への参加意向は15%程度であった。新しい感染症のワクチンの研究開発への患者・市民参画につながる活動への協力意向は、約50%が協力してもよいという意向を示した。
これらの調査結果をもとに、1)ワクチン接種意向とワクチン政策、研究開発への示唆、2)新興感染症のワクチン接種推進に適切な方法、3)新興感染症流行時のワクチン・薬に対するfalse hope、4)新興感染症のワクチン・薬の研究開発に対する市民の関心・協力の程度について考察したい。謝辞:本発表は、AMED感染症研究開発ELSIプログラム「新興感染症流行時の未承認薬利用と研究開発に対する市民の態度に関する研究」の成果の一部です。