近年、非小細胞肺癌では様々なドライバー遺伝子が同定され、遺伝子変化を標的にした分子標的薬により、治療成績の大きな改善が認められている。しかし、EGFR変異以外の多くのドライバー遺伝子は3%未満と希少頻度であるため、その治療開発にはこれまでにない工夫が必要である。臨床試験を実施するためには、(1)希少頻度の対象患者を、短期間で効率よくスクリーニングして、症例登録を完遂するためにはどのようにすれば良いのか、(2)大規模な比較試験が困難な対象において、治療薬の有効性をどのように示すのか、以上の2つの問題点を克服しなければならない。
我々は2013年から大規模な遺伝子スクリーニング基盤としてLC-SCRUM-Asiaを開始し、これまで14,000例を超える肺癌患者の遺伝子解析を行ってきた。このスクリーニングで陽性となった多くの患者が、様々な臨床試験へ登録され、治療薬・診断薬の臨床開発に大きな貢献を果たしてきた。実際に治験を行う施設は少数であっても、LC-SCRUM-Asiaのネットワークを活用して、全国の200施設で対象となる遺伝子変化をスクリーニングして、陽性が判明した肺癌患者のみ、治験実施施設へ紹介し、臨床試験へ登録することが可能になったため、1-2%の希少頻度の肺癌であっても、短期間に効率的に患者登録を完了させることが可能になっている。
治療薬の有効性を確認するための比較試験が困難な希少頻度の肺癌に対して、単群の第2相試験のみで有効性を示すためは、圧倒的な治療効果を示す必要がある。有効性が高い治療薬であればあるほど、スピード感が重要であり、早急に臨床試験を完了し、臨床応用する必要がある。そのためには、いかに少ない症例数で科学的な有効性を示すことが出来るかが重要であり、統計設定に基づいて、客観的に有効性を示すことが可能な症例数の設定が必要になる。これまで、製薬企業、PMDAと多くの議論を重ねてきた結果、希少フラクションに対してどのような臨床試験が適切と考えられるのか提示したい。
これらの試みを通して、LC-SCRUM-Asiaは肺癌における個別化医療の確立へ、今後も貢献を続けていく予定である。