2018年に岡山大学病院(以下:当院)はがんゲノム医療中核拠点病院として指定された。当院エキスパートパネル(以下:EP)は、専門知識を有する多職種のスタッフにより構成されがんゲノム医療の議論を行っている。
がん遺伝子パネル検査(以下:パネル検査)から治療候補に結び付く遺伝子病的バリアント(以下:病的バリアント)が見つかった場合、臨床試験など出口戦略に関連した専門知識が必要とされる。しかしながら、EP構成員の指定要件に薬剤師は含まれておらず、その活動範囲や役割については、ほとんど認知されていない。
当院では薬剤師がEPに定期参加しており、パネル検査から挙げられた病的バリアントより候補となる保険診療、先進医療、治験、特定臨床研究などから考慮される治療選択肢を各診療科の医師と協力して検索している。
これまでの活動や対応事例ではその他、病的バリアントが見つかった患者においてEPで考慮された臨床試験のエントリー状況や適格基準の確認、実施施設に関する問い合わせを受け、薬剤師が臨床試験検索サイトや治験調整事務局から情報収集を行い医師へフィードバックを行っている。また遺伝子特異的な臨床試験ではないものの、パネル検査から挙げられた病的バリアントから薬剤の薬理学的作用機序より考慮可能な臨床試験を検討した事例や患者申出療養制度を用いた特定臨床研究への検討など多岐にわたる。
これら取り組みにより、院内外へ円滑に候補患者を引き継ぐことができ治療開始までの期間短縮や臨床試験の組み入れ促進に繋げることが出来た症例も複数経験した。
演者は現在、当院治験担当部署においてがんゲノム医療に関係した臨床試験も担当しており、臨床試験における調整役であるCRCと共に、綿密なコミュニケーションを取ることで臨床試験参加までの円滑な橋渡しの役割も担っている。さらに臨床試験へ薬剤師が関わることで、薬のエキスパートとして薬剤の特性や副作用予測を熟知している点から治療薬の適正使用および有害事象のフォローなどに貢献できると考える。
本シンポジウムでは、がんゲノム医療に対する薬剤師の役割ということで当院での事例を交えつつ議論の場としたい。