ファーマコゲノミクスに基づくactionableな遺伝情報(PGx遺伝情報)は、医薬品の選択、用量の適正化、効果の予測、重篤な有害事象の回避等において有用である。PGx遺伝情報を個人に回付(返却)する場合には、PGxや関連医薬品の知識や遺伝情報の有用性について、分かりやすく伝えることが肝要である。ゲノムコホート調査参加者への回付においては、事前に遺伝情報回付を受ける意思の確認が必要である。さらに、回付後長期にわたり関連医薬品に注意するように促すことや、将来関連医薬品を使用する場合に、医療者が情報を活用できるようにすることなどに留意しなければならない。
今回私たちは、東北メディカル・メガバンク(TMM)計画のコホート調査参加者に対して、3つのPGx遺伝子(MT-RNR1, CYP2C19, NUDT15)の多型についての遺伝情報を回付した。全ゲノム解析実施者4,378名からランダム抽出した346名に対して、郵送で研究説明会について案内した。MT-RNR1 m.1555A>Gバリアント保持者は事前に解析し、リクルートに含めた。m.1555A>G保持者3名を含む161名が研究説明会に参加し、全員が研究参加に同意した。全ゲノム解析情報は、新たに採取した検体を民間の衛生検査所で実施したサンガー法による配列情報と一致していることを確認し、m.1555A>G保持者に対しては電話で、それ以外の参加者には郵送でPGx遺伝情報を回付した。併せて医療機関への情報提供書2通を密封して同封し、医療機関に持参するよう説明した。m.1555A>G保持者は、予め郵送された説明資料とアミノグリコシド系抗菌薬に対する注意喚起カードについて臨床遺伝専門医による説明を受け、東北大学病院耳鼻咽喉・頭頚部外科を受診した。各段階でPGxに対する知識の習得や行動変容、心理的インパクト等について調査した。
参加者のほぼ全員が参加前にはPGxの知識が皆無であったが、研究説明によりPGxの基礎知識や有用性について理解を深めていた。検査結果については、75%がその概要を理解できたと回答し、m.1555A>G保持者は医療機関を受診したことをポジティブに捉えていた。一方、医療機関で今回のPGx遺伝情報が活用されるかどうかは現時点では不明であり、より確実な情報伝達方法が望ましいと考えられた。