看護職(看護師・助産師・保健師)が勤務する現場は、病院や診療所、訪問看護、老人保健施設、保健所、学校など多岐にわたる。その中で最も多くの看護職が勤務しているのは病院であり、就業中看護職約168万人のうち約101万人(60.5%)を占める。2018年度病床機能報告において高度急性期、急性期病床が合わせて58.1%であったことを考慮すれば、最も多くの看護職が勤務する現場は急性期機能の病院や病棟であると言える。
個々の患者にとっての与薬の質、また組織全体の与薬の質は多角的な視点で総合的に評価されるものと考える。しかし、安全性の観点から言えば、治療計画にそって指示通りの薬剤が誤りなく与薬されること、すなわち誤薬防止が極めて重要な要素であることは論を待たない。そこで、ここでは急性期医療の看護の現場から誤薬防止に焦点を当て、与薬の質や安全性の観点で臨床薬理学教育を考える機会としたい。
急性期医療の現場では、治療をより迅速に確実に行うために点滴や注射による与薬が行われ、その多くは看護職によって実施される。看護職は安全な与薬のため薬剤の知識や与薬に関する技術習得のための教育体制を強化し、与薬の手順遵守、慣れない薬剤を使用する際のリスク認識の強化等に取り組んでいる。しかし、看護職によるインシデントは続いており、誤薬による重大な医療事故もなくなってはいない。
現場ではどのように教育体制や労働環境を改善すればよいか模索している。安全に誤りなく与薬を実施するためには、適切な知識と判断、確実な与薬技術が必要である。その根拠となるのは、治療の理解であり薬剤の知識である。これらの教育は看護基礎教育から始まる。疾病や病態、薬の作用と機序、治療ガイドラインやプロトコールなどの知識を統合させ、与薬の重要性と危険性、看護職が与薬に関わる役割や責任等についての認識や理解を深め、安全な与薬の実施者として成長していくためには、看護基礎教育と継続教育のさらなる連携が必要であると考える。
臨床薬理学教育の強化が誤薬防止という与薬の安全性の向上とともに、急性期医療の段階から患者の退院後の生活を見据えた服薬アドヒアランス向上のための介入や支援という与薬の質向上につながるのではないかと期待する。