分子イメージングは2000年頃から米国を中心に研究が推進され、その主役的存在であるPETの研究分野では、分子標的を明確にしたトレーサー開発がメインストリームとなった。腫瘍イメージングでは、2000年以前は生化学反応や代謝に取り込まれる糖やアミノ酸、核酸、膜成分などのミミックトレーサーが開発や臨床利用の中心であった。しかし2000年以降は、がん治療薬の標的分子となっている増殖因子受容体や転移関連分子などを画像化するためのトレーサー開発が広く展開されるようになった。認知症の研究領域では、2000年以前は脳血流や糖代謝の変化をイメージングで評価する研究が中心的に行われたが、2000年以降は、認知症の病理機序に深く関与するアミロイドやタウなどの分子を標的とするトレーサーの開発研究が大きく発展してきた。分子標的型トレーサーの開発は、グローバルな分子イメージング研究の推進により着実な成長を遂げ、複数の承認薬が出現するまでに至っている。この分子標的型トレーサーの発展の背景には、分子標的薬の画像バイオマーカー・コンパニオン診断薬としての役割があった。この役割は今もなお重要性を増しているが、新しいトレンドとして、診断薬と治療薬の両方の機能を備えたセラノスティクス型薬剤の開発が高い関心を集めている。このような背景を踏まえ、本講演では分子イメージングの誕生から現在に至るまでの分子標的型トレーサーの開発研究とその将来展望について概説する。