NCCオンコパネルシステム検査(NOP)とFoundationOne CDx検査(F-One)が保険診療として実施可能となり、遺伝性腫瘍診療には大きなパラダイムシフトが起きた。がんゲノム検査の結果、本来の治療標的を定める目的の遺伝子プロファイリング解析結果以外に、遺伝性腫瘍関連遺伝子に関わる情報についてgermline findings(GF)として遭遇しうる。GFの開示に当たっては、NOPではgermlineの解析を行っているため確定的な検査である。一方でF-Oneの場合、腫瘍由来の情報のみでありGFについてはあくまで"presumed"という表記が妥当であるため、確認検査が必要である。現時点でgermlineについての確認検査は保険収載されておらず、どの遺伝子を開示対象とするのか、pathogenicityの評価をどう行うのかについては各施設の判断に委ねられており、今後本邦においての対応を統一することは大きな課題といえる。
がんゲノム診療の現場において、もともと想定していない遺伝性腫瘍関連遺伝子が検出されるケースにも遭遇しうる。とくに保険診療におけるがんゲノム検査を希望する患者は標準治療終了見込みの患者が多く、藁にも縋る思いで検査を受けられるケースも少なくない。治療を提供できない患者に対して、GFのみを返却することは主治医にとっても非常に負担の大きい説明であることは想像に難くない。また現在の癌治療だけで精一杯の患者が直接治療方針に関わらないGFについて開示された場合、血縁者への影響について考える余裕がない場合もある。
そのような状況にあってもGFを開示し確認検査をする意義のひとつは、目の前の患者の治療には役立てずとも、家族に対する医療介入によってがん死低減に寄与できる可能性があることである。患者の遺伝学的診断によって家族が発症前にリスクがあることを理解し、適切なサーベイランス介入を行うことで、早期発見・早期治療につなぐための方策が提案できることがある。
GF開示にあたって遺伝診療部門として重視していることは、患者・家族にとって正確な情報を整理し、正しい理解を助け、家系全体のがん死低減に寄与できるための前向きな心理社会的支援である。がんゲノム診療の普及と共にがんゲノム検査を実施する医療施設は、患者・家族に適切なサーベイランスを提供できる院内態勢の整備が急務である。