岡山大学病院(以下、当院)は中国四国地方において唯一がんゲノム医療中核拠点病院として指定されており近隣施設のがんゲノム拠点病院などの医療機関と連携し、がんゲノム医療の中心的役割を担っている。当院における役割の一つとしてエキスパートパネル(以下、EP)の開催が義務づけられており、専門知識を有する多職種のスタッフにより構成されがんゲノム医療の活発な議論がなされている。がん遺伝子パネル検査(以下、パネル検査)から治療候補に結び付く遺伝子病的バリアントが見つかった場合、出口戦略として臨床研究が候補として挙げられることも少なくない。そのため出口戦略に関連した専門知識、各がん種における標準治療や病態の理解、分子標的治療薬などの薬剤情報が必要とされる。しかしながらEP構成員の指定要件に薬剤師は含まれておらず、がんゲノム医療における活動範囲や役割についてはほとんど認知されていない。
当院では現在、薬剤師兼臨床研究コーディネーター1名が、がんゲノム医療に携わっている。院内外合わせて約20症例/週のパネル検査結果をEP前までに事前確認し、臨床研究の実施状況や適格性確認等における出口戦略の検討、およびパネル検査から結びついた治験や患者申出療養制度を用いた特定臨床研究の業務支援を行っている。さらに薬の専門家として薬理学的特性を熟知していることから治療薬の適正使用にも貢献している。必要時にはEP前に薬剤師が論文検索を行い、医師へ臨床情報をフィードバックすることもある。これら業務は各診療科医師から信頼関係が無ければ出来ないと考えられ、まさしくチーム連携が必須であると言える。
現在においてもパネル検査から治療に結び付く症例は約1割程度と報告されている。より治療に結び付く症例を増やすためには、ビッグデータ解析を用いて治療標的になり得る薬剤の臨床情報整理や論文抽出等の業務効率化、ドラッグリポジショニング研究から既存薬をよりがんゲノム医療に結び付ける橋渡し研究等の活性化、がんゲノム医療を専門とした薬剤師の人材育成が必要である。
今後がんゲノム医療における薬剤師の役割が重要と位置付けられることが予想され、本シンポジウムでは薬剤師の期待と課題について皆様と議論したい。