消化性潰瘍を含む酸関連疾患の治療は1982年にH2受容体拮抗剤が利用できるようになり劇的に変化しました。それ以前は消化性潰瘍の多くは再発・難治症例が多く外科的治療を要する疾患でしたが、H2受容体拮抗剤により保存的治療が可能な内科疾患となったのです。その後1990年代に入りさらに強力な酸分泌抑制が可能であるプロトンポンプ阻害剤(PPI)が登場します。消化性潰瘍の治療に関しもう一つ重要な因子がHelicobacter pylori (H. pylori)の発見です。H. pyloriの除菌による潰瘍再発・胃癌発生の抑制が示されました。H. pylori除菌治療にはPPIと抗生剤を使用します。抗生剤としてAmoxicillin(AMPC)とClarithromycin(CAM)を使用しますが、AMPCは十分な酸分泌抑制がなければ抗菌効果を発揮できません。PPIは程度の差はありますが、CYP2C19にて代謝を受けるため、その遺伝的多型性の影響を受けます。両アレルが野生型であるRapid metabolizer(RM)と片方のアレルに変異のあるIntermediate metabolizer(IM)、二本のアレルの両方に変異があるPoor metabolizer(PM)に分類され、PPIの代謝が早いRMでは十分な酸分泌抑制が達成されずAMPCの効果が十分に発揮できないため除菌率は低く、逆に代謝の遅いPMでは除菌率が高くなります。通常除菌治療では2倍量のPPIを使用しますが、酸分泌抑制の十分でないRMにおいては4倍量のPPIを使用することにより十分な酸分泌抑制が達成され、PMに劣らない除菌率が得られます。最近は日本人の酸分泌能の増大やH. pylori感染率の低下、食事の欧米化などにより胃食道逆流症(GERD)が増加しています。GERDの一つである逆流性食道炎の治療はしっかりとした酸分泌抑制が必要です。やはりPPIによる逆流性食道炎の8週後内視鏡的治癒率は酸分泌抑制が十分達成されるPMで高く、RMで低い結果です。2015年にP-CABが利用できるようになり、PPIに比べ半減期が長く酸に安定であることから、PPIよりも強力で持続する酸分泌抑制が達成されます。H. pylori除菌率はPPIレジメンに比べ高い除菌率を達成しています。逆流性食道炎の治療に関しても特に重症な症例ではP-CABによる24週後の再発率は低値です。P-CABは主にCYP3A4にて代謝を受けるため、CYP3A4で代謝される薬剤との併用には注意を払うべきです。また強力な酸分泌抑制力のため血中ガストリン値が高値となるため、こちらに関しては今後も経過観察が必要と考えられます。