消化器癌の早期発見、早期治療は増加しているが、切除不能進行癌で診断される症例も依然多く、癌薬物療法の効果的な対策が求められている。癌診療においても個別化医療の潮流が見られるが、いまだ十分であるとは言えない。 消化器癌におけるコンパニオン診断(CDx)として、胃癌ではHER2発現、大腸癌ではRAS・BRAF変異、膵癌ではBRCA1/2変異等の検査があり、対応する治療薬の適応が決定されている。また免疫チェックポイント阻害薬Pembrolizumabの適応決定に、MSI-H検査が実施可能である。しかし、CDxで対応する薬物が使用可能となる症例は一部に限られる。標準治療の治療難渋例には、包括的ゲノムプロファイリング(CGP)検査(がんパネル検査)が行われエキスパートパネルを経て治療薬が検討されるが、現状では薬剤到達率は1割程度であり、新たなバイオマーカー探索が急務である。その中で、殺細胞性抗腫瘍薬の効果予測として期待されているのがSLFN11である。 2012年、2つの独立したグループが癌細胞遺伝子Databaseの解析よりSLFN11を見出した。NIH/NCIのグループは60の代表的な癌細胞株NCI-60の薬剤感受性と遺伝子発現Dataを用い、Topoisomerase阻害薬感受性の解析からSLFN11を見出し、卵巣癌や大腸癌において抗腫瘍薬の薬剤感受性やOSにSLFN11発現が影響することを報告した。もう一つのHarvardとMITのグループは1000以上の癌細胞株CCLEの遺伝子解析からSLFN11を見出し、SLFN11発現がTopoisomerase阻害薬の感受性に関連すると報告した。SLFN11は抗腫瘍薬や放射線によるDNA損傷時に複製フォークへ結合し、クロマチン構造を変化させ、複製フォークの進行すなわち複製を阻害する。SLFN11による複製の阻害は永続的であり、長期にわたるS期停止が薬剤感受性に寄与すると考えられる。SLFN11の研究報告は加速度的に増加傾向にあり、2020年当科グループも食道癌における放射線化学療法の予後予測因子であることを報告し、特にStage II IIIの食道癌において手術とCRTの選択に有用である可能性が示唆された。現在、消化器癌にとどまらず様々な領域でSLFN11の臨床応用が検討されており、今後の活用が大いに期待される。