臨床薬理学会認定薬剤師制度は数ある認定薬剤師・専門薬剤師制度の中で最も歴史が古く、本邦初の学会レベルで発足した認定薬剤師制度である。臨床薬理学の発展と普及に主眼を置いており、臨床薬理学会認定薬剤師を取得するには臨床経験だけではなく学術論文をはじめとした研究業績も求められる。本演題では、演者自身が取り組んできた活動内容を紹介し、認定薬剤師の今後のあり方について議論を深めたい。
大多数の認定薬剤師は領域・診療科に特化した方針が敷かれている。一方、臨床薬理学会認定薬剤師制度では診療科の垣根を超えた領域横断的な活動も評価される。近年、Onco-nephrologyなどの領域横断的な介入も求められており、臨床薬理学会認定薬剤師の強みとなることが期待される。血管新生阻害薬である抗VEGF抗体は、既存の殺細胞性抗がん剤の併用により種々のがん種の予後を改善してきた。しかし、高血圧や蛋白尿の副作用がしばしば治療継続の障害となりうる。そこで、高血圧や糖尿病性腎症で汎用されるRA系阻害薬による腎保護効果、すなわち尿蛋白抑制効果に注目して臨床研究を実施した。その結果、RA系阻害薬は抗VEGF抗体投与症例に対して抗尿蛋白作用を発揮し、尿蛋白を認めた症例では降圧コントロール不良の傾向であった。
所属に違いはあれ、臨床薬理学会認定薬剤師は臨床現場への志向を忘れてはいけないと自戒している。薬剤師の大きな責務として医薬品適正使用の貢献が謳われており、その実現に不可欠なスキルの一つとして薬物動態学がある。過去のソリブジン事件からも薬物動態学の重要性は想像に難くない。演者はST合剤による高K血症の危険因子として、高用量ST合剤が独立した危険因子であることを見出した。高K血症の機序として、トリメトプリムが濃度依存的に腎尿細管におけるK+分泌を阻害することが知られている。しかし、K+の体内動態は種々の要因により異なり、医薬品と生体の両方からST合剤による高K血症について検討するべきである。そこで、演者はST合剤による血清K値の推移を予測するPK-PDモデルの開発に着手している。また、アザチオプリンとアロプリノールとの薬物相互作用はキサンチンオキシダーゼを介して起こることが知られているが、腎機能低下患者では薬物相互作用が増強することを見出した。
【参考文献】
T Hirai, Cancer Chemother Pharmacol. 2019; 84:195-202.
T Hirai, J Infect Chemother. 2021; 27:1607-1613.