日本臨床薬理学会への入会は治験を担当する部署への配属がきっかけであった。新しい治療に対する患者の期待や、治療の選択肢を増やしたいという医師の思いに直接触れ、薬剤師CRCとして治験への関わり方を模索している時期であった。治験を通じて添付文書の情報が構築される手順を知り、臨床研究の進め方や守るべき規則を学び、2011年に認定CRCを取得した。特に、臨床研究の進め方や守るべき規則を身につけたことは、その後の博士課程での研究に役立った。治験の部署から薬剤部に戻った後、社会人大学院生として「甘草含有漢方薬投与による低カリウム血症の発症要因に関する研究」に取り組むことになった。この時、漢方薬の副作用を、西洋医学的な思考も取り入れて臨床薬理学の手法で評価したいと考え、学会認定薬剤師を目指した。自身の研究成果を本学会の学術総会で発表しながら研究論文をまとめ、博士の学位と同時に学会認定薬剤師も取得できた。
 学位取得後は医療安全部門へ配属され、現在は医薬品安全管理責任者の指名する薬剤師として院内全体の医薬品の安全管理業務に従事している。本業務では、特に「未承認薬の臨床使用」や「医薬品の禁忌・適応外使用」を評価する能力が求められる。未承認薬や禁忌・適応外使用のエビデンスは限られており、各薬剤の薬理作用・副作用や薬物動態を理解した上で、対象症例に投与することのメリットとデメリットを判断することが重要である。この過程では、本学会の認定薬剤師・CRCとしての知識や経験が役立っている。患者の希望や、患者を救いたいという医師の強い思いを受け止めつつも、未承認薬等を選択する倫理的・科学的妥当性や使用方法の可否について薬剤師として適切に判断できるよう心掛けている。また、医療安全部門の薬剤師として、治験審査委員会、いばらき治験ネットワーク中央治験審査委員会、臨床研究倫理審査委員会、臨床研究審査委員会の委員も務めている。各委員会では、医薬品の有効性・安全性に対する薬剤師としての視点と、被験者の気持ちに寄り添ったCRCとしての視点から、患者がよりよい医療を選択できるような発言を心掛けている。
 認定薬剤師・CRCとしての知識や経験は、これまでの私の業務および研究に対する考え方に大きな影響を与えてきた。本発表ではそれらを紹介しながら、医療現場における臨床薬理学会認定薬剤師の役割とその可能性を考えてみたい。