世界の高齢者人口は2050年までに倍増する見込みであり、また薬物動態特性情報の少ない80~90歳代の人口は特に急増している。さらに高齢者の薬物治療では多剤併用による相互作用リスクが高まることにも注意が必要である。
経口薬の中でも肝代謝型の薬物は市場の多くを占めている。そこで高齢者の生理学的変化の見積りに役立つように、我々は肝クリアランスに対する加齢の影響を定量的に予測することを目指した。医薬品承認申請資料に公開されている多数の薬剤の母集団薬物動態(PPK)解析結果を活用し、年齢が全身クリアランスの有意な共変量であった薬剤を調査した。最終的に18薬剤を解析対象として、年齢の代表値及びクリアランス変動比を抽出した。各薬剤の年齢によるクリアランス変動は加齢全体におけるクリアランス変動の断片情報と仮定し、薬剤間で非線形最適化を行い、肝クリアランスの年齢推移を予測するモデルを構築した。その結果、80 歳時の肝クリアランスは40 歳時と比較して約30%、90歳時には約40%低下し、40歳時点から1年間に0.8%低下すると予測された。この低下傾向は報告されている加齢による肝重量の変化と良く一致した。
また、薬物相互作用のマネジメントのために、我々はCYP基質薬の代謝寄与率(CR)とCYP阻害薬の各分子種への阻害率(IR)から薬物曝露(AUC)変化を予測するCR-IR法を構築してきた。現在はin vitroとin vivoの情報を一つのモデルの枠組みに統合し、予測精度の向上を目指している。本講演では、統合モデルの概要と、本解析で新たに浮上した相互作用薬の組み合わせとしてCYP2B6で代謝活性化を受けるシクロフォスファミドとCYP2B6阻害薬のボリコナゾールの併用リスクについて検討した内容を報告する。
以上の研究手法は、加齢が薬物動態に与える影響を適切に見積り、一方では新たな薬物相互作用のリスクを網羅的に予測する精度を高めることで、高齢者の用法用量調節及び個別化医療の実現に資するものと考えられ、今後とも継続的に追究する。