高齢者は、加齢に伴う生理機能の変化や併存疾患治療のために投与された薬剤間の相互作用等により、安全性上の問題が生じやすい状況にある。しかし、医薬品の製造販売承認に際して実施される治験では、対象患者の範囲および症例数は限定されており、通常、高齢者や多剤併用の患者は対象とはされない。従って、承認時における知見は必ずしも十分ではなく、より適切な薬物治療の実施には、更なる情報の収集、評価・解析並びに現場への還元が必要である。服用薬剤数の増加に関連した薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤やアドヒアランス低下等の問題につながる状態をポリファーマシーと呼び、有害事象の発現率は併用薬剤数とほぼ比例して増加する事が知られている。特に75歳以上の高齢者の約25%で7種類以上の薬剤が処方されており、潜在的に有害事象のリスクに曝されている。ポリファーマシー是正と高齢者の特徴に配慮した適切な薬物治療のため、平成29年4月に「高齢者医薬品適正使用検討会」が設置され、高齢者での医薬品の安全性確保に関わる調査・検討に基づき、平成30年5月に「高齢者の医薬品適正使用の指針 (総論編)」が、令和元年6月に「同・各論編 (療養環境別)」が厚生労働省より発出された。この様に高齢者に対する医薬品適正使用の推進は喫緊の課題であり、薬物療法の適正化に際する有用なエビデンスの構築が求められる。
近年、IT技術の発展や情報のデータベース (DB) 化に伴い種々のリアルワールドデータを利活用したDB研究が盛んになってきた。DB研究の最大の利点として、データ規模が大きく、従来の臨床試験では特定が困難であった稀なケースの検出や、より広い範囲の患者情報の活用が可能な点が挙げられる。本邦においても複数の医療用DBが利用可能であり、治験等では得られにくかった高齢者における薬剤の使用実態や、有害事象発現傾向の調査、およびそれらを踏まえた安全確保策の検討に際しても有用であるが、調査解析に際してはそれぞれの特徴を十分把握したうえで、適切なDBを選択する事が重要である。JADER (Japanese Adverse Drug Event Report database) は、医薬品医療機器総合機構が提供する医薬品副作用DBであり、100万件を超える副作用が疑われる症例報告の情報が蓄積されている。本発表では、高齢者で特に注意すべき薬剤の適正使用に向けて、JADERを中心とした医療情報DB等を用いた我々の取り組みについて紹介する。