生活習慣病をはじめとする慢性疾患は、一般的に高齢になるにつれて罹患率が上昇する。高齢者においては、複数の疾患を合併し、複数の医療機関を利用しているケースも少なくなく、結果的に、同時に服用する処方医薬品数が増加する傾向がある。一方で、加齢に伴う生理的な変化によって薬物動態や薬物反応性が一般成人とは異なることや、治療のために投与された複数の薬剤同士で薬物相互作用が起こりやすく、薬物有害事象が発現しやすくなるポリファーマシーが問題となっている。2018年5月には、高齢者の薬物療法の適正化(薬物有害事象の回避、服薬アドヒアランスの改善、過少医療の回避)を目指し、高齢者の特徴に配慮したより良い薬物療法を実践するために、厚生労働省から「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」が公表されている。本指針においては、高齢者において潜在的に有害事象が多い可能性のある薬剤を中心に、高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点がまとめられている。
近年、医療情報のIT化に伴い、収集されるデータ量が増加したこと、General Purpose GPUの出現による計算機の処理能力の向上により、医療分野におけるビッグデータ分析によるデータの利活用が活発化している。2008年4月から施行されている「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づき、厚生労働省が医療費適正化計画の作成、実施及び評価のための調査や分析などを行う目的でレセプト情報・特定健診等情報データベース(National Database:NDB)が構築された。NDBは医療機関が医療保険者へ向けて発行する診療報酬請求明細書情報と、特定健診・特定保健指導情報の2つの要素が格納されており、国民皆保険制度に基づいた保険診療行為に紐づけるための保険病名、実施した検査や処置の内容と費用、処方内容と薬剤費などの情報、国民健康保険の被保険者とその被扶養者の受診情報が含まれている。
現在、横浜薬科大学と武蔵野大学の合同研究チームにおいて、高齢者における有害事象とポリファーマシーの実態について、種々の情報源を用いたリアルワールドデータの解析を進めている。本発表では、医療情報データベースを用いた高齢者におけるポリファーマシーの実態、リスク評価と安全確保の検討にむけた取り組みについて紹介する。