過活動膀胱(OAB)は尿意切迫感(突然起こる、我慢できないような強い尿意であり通常の尿意との相違の説明が困難なもの)を必須とし、通常は頻尿と夜間頻尿を伴う症状症候群と定義されている。これら症状は患者の日常生活に支障をきたし、QOLを著しく低下させる。本邦における40歳以上を対象とした大規模疫学調査によれば、OABの有症状率は全体の12.4%で、2002年の人口構成からOAB症状を有する人の実数は810万人と推定されている(過活動膀胱診療ガイドライン第2版, 2015)。OABの危険因子の1つに加齢が存在することから、急速なスピードで高齢化が進む我が国において今後OAB患者がますます増加し、OAB治療薬の社会的ニーズも更に高まると推測される。OABに対する現行の薬物療法は抗コリン薬およびβ3作用薬が主流であり、いずれも直接膀胱組織へ作用し過剰な膀胱収縮を抑制する薬物である。一方、OAB症状の経時的変化の観察検討によると、その寛解率は約40%と報告されている(過活動膀胱診療ガイドライン第2版, 2015)。これは現行の薬物療法が奏功しないOAB患者の存在を示唆するものであり、新たな治療標的の同定が必要と考えられる。
 近年、機能的脳画像(PET, fMRI)を用いた研究により、OAB患者―健常者間にて蓄尿時に活性化される脳内部位に相違があることが報告されている。すなわち、蓄尿に伴って膀胱から脳への入力が増大する際、脳における膀胱からの情報処理様式がOAB患者―健常者間で異なることが示唆される。よって、OAB患者における「異常な」脳の応答の是正、が新たなOAB治療戦略となる可能性が考えられる。しかしながら、中枢神経系を標的としたOAB治療薬は現状存在しない。本講演では中枢神経系による排尿制御機構について概説した後、OABの治療標的となる可能性を有する脳内分子について、演者らの研究成果を交えながら紹介したい。