長崎大学病院では、2018年に初めて自施設が代表施設を務める医師主導治験を実施し、臨床研究センターとしても初めての調整事務局支援を開始した。医師主導治験支援開始当初はAROの助言を受けながら、治験業務を医薬品開発業務受託機関(Contract Research Organization;CRO)に委託し医師主導治験を実施した。その後はノウハウを蓄積しつつ、CROに業務の多くを委託しながら医師主導治験を実施しているが、今回、臨床研究中核病院Academic Research Organization(ARO)である千葉大学医学部附属病院臨床試験部から包括支援を受け、共同調整事務局として下記のように医師主導治験を実施している。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する迅速な治療法確立は喫緊の課題であり、速やかな臨床開発のための既存薬のrepositioningはその有用な手段である。長崎大学は、Ohashiら研究グループが発表した既承認薬のin vitro及びin silicoスクリーニングからネルフィナビルが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して高い抗ウイルス効果を示すこと、COVID-19患者のウイルス量動態変化の報告に基づいたシミュレーション結果からネルフィナビルのHIV感染症に対する既承認用法用量にてSARS-CoV-2に対する抗ウイルス効果が期待できると予測されたこと、及び日本人HIV患者に対する安全性について十分に検討されていることを踏まえ、無症状および軽症COVID-19患者を対象とした、医師主導、多施設共同、対症療法群対照ランダム化非盲検並行群間比較試験を立案・実施した。医師主導治験支援にあたっては、2020年4月末に初めて研究者から治験実施の相談があり、その後薬事規制当局との相談、治験審査委員会審査、治験届を迅速に進め、同年7月下旬には治験を開始することができたが、AROとの緊密及び定期的な相談、連携により、超短期間での治験実施体制構築に加え、隔離被験者への対応及び宿泊療養施設下での被験者対応、治験薬使用期限及び治験薬輸入の問題、治験検査検体回収及び検査体制の構築等々多くの困難を克服し目標症例数を達成、現在治験終了に向けた準備を進めている。当日は本治験でのAROと連携、協働についても触れながら、AROの多様性について議論したい。