AROすなわちアカデミック臨床研究機関ができてまだ日が浅い中でその特徴は組織によって異なるが、最終的な目標としてシーズが、薬事承認や保健収載を経てベッドサイドに届くことを掲げていることは共通である。最近は先端的な医療技術による再生医療分野の研究が増加傾向にあり、再生医療製品の治験にAROとして関わる組織は少なくない。
一方、新型コロナウイルス感染禍において、AROの活動は、今まで通りに進むのではなく、社会の中の多くの課題がそのままAROとしての活動にも影響を与えたと考えられる。そこで、その課題について3つに視点から考察をしてみたい。
第一に、新型コロナウイルス感染禍においてこれに関する国の研究開発予算が増えるに従いAROとしても新型コロナウイルス感染の治療や予防に関する研究に関与することが増えてきた。千葉大学AROでは、新型コロナ感染に関する医師主導治験3試験や医薬品を使用した特定臨床研究、病態解析、ゲノム解析、バイオマーカ探索に関する研究、職員2015名のワクチン接種における抗体検査研究などさまざまな研究に関わってきた。病態解析が進む中での同時並行での臨床試験という意味で、その科学的な側面の検討と研究の迅速性を求められるなど従来とは異なる状況である。臨床研究の開発の方法論に関する薬事上の変更などもあり、科学性と迅速性が両方求められる状況にある。
第二に、人や物の移動制限に伴う研究の進捗への影響である。当院は首都圏に位置しており、県をまたぐ移動については大きく制限され、患者さんが遠方から治験のために来院することや、医療機関への訪問制限によりモニタリングによる品質管理活動は、大きく制限を受けるに至った。
第三は、緊急事態宣言による医療機関の体制や患者さんの受診控の影響である。これにより新型コロナウイルス感染患者を対象とした試験以外についても被験者組み入れへ大きな影響が発生した。4回の緊急事態宣言のたびに試験での組み入れは大きく落ち込み目標とする被験者組み入れスケジュールに影響が発生した。
このようにAROの活動については、新型コロナウイルス感染禍においては今まで以上にその研究開発の必要性と活動の迅速性に加えて、社会活動の制限に大きく影響を受けることが明らかであり、私たちは、社会の中の一員として常に非常時における対応について考えていくことが必要である。