【目的】バルプロ酸は抗てんかん薬や統合失調症治療薬として臨床現場で広く使用されている。しかしながら、バルプロ酸の副作用には肝障害があり、バルプロ酸内服患者のうち、10~40%は一過性の軽度のトランスアミナーゼの上昇を認める。また、一部の患者では重篤な肝障害を起こし、肝不全に陥る場合もある。特に劇症肝炎による死亡例では多剤併用例が多いことも報告されている。これまでに我々はシスプラチン誘導性腎障害に対する保護薬として公共データベース及び有害事象自発報告データベースを用いて5HT3拮抗薬のパロノセトロンを同定し、ゼブラフィッシュを用いたin vivo実験及び三重大学病院の電子カルテやレセプトデータベースを用いたリアルワールドデータ解析によりパロノセトロンの保護効果を実証した。そこで本研究では同アプローチを用いて、バルプロ酸誘導性肝障害に影響を及ぼす薬物について探索を行なった。
【方法・結果】公共トランスクリプトームデータベース (Gene Expression Omnibus)を利用して、バルプロ酸誘導性肝障害の遺伝子発現シグネチャーを同定した。さらに、化合物シグネチャーデータベース(Connectivity Map CLUE)を用いて、バルプロ酸誘導性肝障害シグネチャーと同じまたは逆向きの変化を与える化合物を予測した。また、有害事象自発報告データベース(FDA Adverse Event Reporting System: FAERS)を用いて、バルプロ酸誘導性肝障害を副作用とするオッズ比を上昇または低下させる併用薬を探索した。これらの解析により予測されたバルプロ酸誘導性肝障害に影響を及ぼす併用薬について、三重大学病院の電子カルテ情報を用いて臨床的影響を検証した。さらに、ゼブラフィッシュを用いてバルプロ酸誘導性肝障害に対する併用薬の影響を評価した。
【結論】本研究で用いたアプローチはさまざまな薬物性肝障害に対する併用薬の影響評価にも有用であると考えられる。