【目的】下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)は多様な生理活性をもち、神経伝達物質としてだけでなく免疫系の調節や血管拡張因子としての役割がある。また腫瘍病態を修飾することから、治療のターゲットとして注目されている。本研究では、肝細胞癌(HCC)におけるPACAPのがん細胞増殖に対する作用を明らかにすることを目的とした。【方法】本学内ではヒト組織バンクを保有し、外科手術時に採取された患者の肝臓癌組織を文書同意のもと保存している。この患者由来の肝細胞癌肝臓組織を用いてPACAPおよびその受容体(PACAP1, VPAC1 そしてVPAC2) のタンパク発現を免疫組織学的染色およびWestern blottingより評価した。さらにPACAPの作用を検討するために、HCC細胞株 HepG2 およびHuh7にPACAP-38(10-12―10-9 M)を添加して培養後、細胞増殖反応をMTS法にて測定した。回収した蛋白はアポトーシス関連蛋白の発現を検討した。【結果・考察】HCC肝臓組織におけるPACAPの発現は、血管周囲に存在する神経線維より多く産生されていた。またPACAP1, VPAC1 そしてVPAC2の発現はがん細胞に多く発現していた。HepG2 およびHuh7の細胞増殖は、PACAPの生体内濃度に近似する10-10M で有意な抑制を認めた。またPACAPは、HCC細胞株のCaspase-3の発現が増加した。【結論】以上の結果より、PACAPはHCC組織において発現し、その受容体ががん細胞に発現することを示した。またPACAPはがん細胞のアポトーシスを誘導し、増殖抑制に働くと考えられた。PACAPの癌細胞増殖抑制は、HCCの新たな治療ターゲットになり得ることを示唆した。