【目的】免疫系疾患やがん等を対象に,多くのバイオ医薬品が開発されているが,バイオ医薬品は有効成分がタンパク質であることから免疫原性を有し,ヒトへの投与後に有効成分に対する抗体,すなわち抗薬物抗体(ADA)が産生される場合がある.ADAの産生は,血中半減期の短縮や薬理作用の阻害による有効性の低下,免疫複合体を介した補体やFc受容体の活性化による有害反応等につながる可能性があるため,バイオ医薬品の開発・使用の際には,免疫原性の評価が重要である.そこで本研究では,日本人炎症性腸疾患患者を対象に,抗TNFα抗体医薬品投与患者血清中のADAを測定し,ADA陽性率および抗体価に影響する因子について考察した.【方法】抗体医薬品が投与された炎症性腸疾患患者(潰瘍性大腸炎,クローン病,ベーチェット病)について,血清試料および臨床情報を収集した.患者血清中のADAは,電気化学発光(ECL:Electrochemiluminescence)法を用いたスクリーニングアッセイ及び確認アッセイを実施し,陽性・陰性判定を行い,スクリーニングアッセイにおけるECLのレスポンスにより抗体価を評価した.また,ELISA法により血清中の抗体医薬品濃度を測定した.【結果・考察】抗TNFα抗体医薬品を投与された炎症性腸疾患患者176例(インフリキシマブ87例,アダリムマブ66例,ゴリムマブ23例)から血清試料を収集した.インフリキシマブ投与量の中央値は400mg,アダリムマブは40mg,ゴリムマブは100mgであった.抗体医薬品投与患者血清のADAアッセイを行ったところ,ADA陽性率が医薬品によって異なっていた.また,インフリキシマブあるいはアダリムマブ投与患者血清では,スクリーニングアッセイにおいて陽性判定基準を大幅に上回る抗体価を示す検体が複数見られた.抗体価の高い検体では,血中の遊離薬物濃度が低い傾向があり,ADAの存在により抗体医薬品の消失が高まっている可能性や,抗体医薬品がADAとの複合体として存在している可能性が考えられた. 【結論】ECL法を用いて炎症性腸疾患患者の血清中ADAおよび血中薬物濃度の評価を行い,ADA陽性率を明らかにした.