【目的】経口糖尿病治療薬であるナトリウム・グルコース共輸送体2阻害剤dapagliflozinに関しては、2020年11月、慢性心不全の効能・効果が追加承認され、血糖降下作用以外のプレイオトロピック作用に注目が集まっている。そこで本研究では、2型糖尿病患者を対象として脂質プロファイルの変化を調べるとともに、脂質異常症モデルラットを用いて基礎的な検討を行った。
【方法】2型糖尿病患者72名を対象とした。罹患期間は10.8±7.7 年(±SD)であった。年齢は58.4±10.6 歳、男女比は52:20であった。投与開始時(ベースライン)および投与開始1、3、6、9、12ヵ月後に臨床検査を行い、triglyceride値、LDL-C値およびHDL-C値のベースラインからの変化量を評価した。なお、本検討は市立砺波総合病院、京都薬科大学における倫理委員会の承認を得て実施した。一方、Wistar系雄性ラットを用いて、常法に従い、poloxamer 407、1 g/kgを腹腔内投与することで脂質異常症モデルを作製した。Dapagliflozinを常用量に相当する0.1 mg/kgで経口投与し、投与後8時間まで経時的に採血を行い、作用部位である腎臓を摘出した。血漿中および腎臓中のdapagliflozin濃度はLC-MS/MSで、各脂質成分値は測定キットを用いて評価した。
【結果・考察】ベースラインのtriglyceride値、LDL-C値、HDL-C値は、各々、123±48 mg/dL、89±24 mg/dL、52±15 mg/dLであった。投与開始12ヵ月後まで、LDL-C値、HDL-C値は変化しなかった。しかしながら、triglyceride値は投与開始12ヵ月後で有意に低下した(-13±45 mg/dL、p=0.028)。さらに、ベースラインが150 mg/dL以上の患者で顕著に低下し(-45±56 mg/dL、p<0.01)、その低下は経時的であった。一方、脂質異常症モデルラットにおけるdapagliflozinのAUC0-8hおよび投与8時間後の腎臓中濃度は、正常ラットに比べて、各々、約1.4倍、約0.6倍であり、脂質異常症を伴う患者で血糖降下作用が減弱する可能性が示唆された。なお、投与8時間後まで、triglyceride値、cholesterol値はともに低下しなかった。
【結論】ベースラインのtriglyceride値が高い患者でtriglyceride値が顕著に低下した。今後、脂質異常症モデルラットを用いてより長期間の観察を行い、dapagliflozin投与に伴うtriglyceride値低下のメカニズムの検討を行う。