【目的】ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害剤に関しては、重度の腎機能障害患者には血糖降下作用が期待できず、中等度の腎機能患者についてもその効果が十分に得られない可能性があるとされている。本研究では、慢性心不全の効能の追加承認により注目を集めているdapagliflozinを取り上げ、2型糖尿病患者における各種パラメータの変動を腎機能で層別化して検討するとともに、腎障害モデルラットを用いて薬物動態学的な基礎的検討を行った。
【方法】2型糖尿病患者72名を対象とした。投与開始時および投与開始1、3、6、9、12ヵ月後において臨床検査を行い、体重、拡張期血圧、収縮期血圧、HbA1c値の変化量を評価した。変化量の評価にあたっては、CKD診療ガイド2012のCGA分類に従い、G1(eGFR≧90 mL/min/1.73m2)、G2(60~89)、G3a(45~59)、G3b(30~44)に層別化した。なお、本検討は市立砺波総合病院、京都薬科大学における倫理委員会の承認を得て実施した。一方、Wistar系雄性ラットを用いて、常法に従い、虚血再灌流処置を施し、急性腎障害モデルを作製した。Dapagliflozinを常用量に相当する0.1 mg/kgで経口投与し、投与8時間後まで経時的に採血を行い、作用部位である腎臓を採取した。血漿中および腎臓中の dapagliflozin 濃度はLC-MS/MSにて測定した。
【結果・考察】投与開始前と比べて、投与12ヵ月後で、体重、HbA1c値は有意に低下(各々、-1.3±2.6 kg、p<0.01、-0.2±0.5 %、p<0.01)したものの、拡張期血圧、収縮期血圧は変化しなかった。G3bの患者でHbA1c値は低下しなかったが体重は低下傾向にあった。また、正常ラット、腎障害モデルラットにおけるAUC0-∞は、各々、693±370、651±382 ng・hr/mLであったが、投与8時間後における腎臓中濃度は、各々、371.1±47.6、264.7±90.0 ng/g であり腎障害モデルで低下傾向にあった。ただし、腎移行クリアランスは、各々、1.46±0.68、1.50±1.13 mL/hr/gで同等であった。
【結論】G3bの患者において、HbA1c値が低下しないことが確認できたが、体重が低下する傾向にあった。症例数を増やして検討を継続する。また、腎障害モデルラットにおいて腎臓中濃度の低下傾向が認められた。このことが腎障害患者でHbA1c値が低下しないことに関係している可能性が示唆された。