【目的】シルデナフィルはホスホジエステラーゼ5の選択的阻害を機序とする肺動脈性肺高血圧症 (PAH) 治療薬であり、小児の適応症を有する。本薬はCYP3A4により代謝され、その薬物動態は、成長過程の変化とそれに伴うCYP3A4活性の変動の影響を受ける。一方、PAH治療では、肺動脈血圧が目標値まで下がらない場合、エンドセリン受容体拮抗薬との併用も選択肢の1つとなる。この場合、他剤の阻害・誘導による血中濃度の変動も考慮した投与設計が必要となる。本研究では、シルデナフィル経口投与または直腸内注入後、血漿中濃度モニター時に得られたデータを用い、既報の母集団薬物動態 (PPK) モデルによる予測の適用性について検討することを目的とした。
【方法】経口投与後のPAH患児 (体重の平均10.5kg, 範囲2.6-36kg) 15名と直腸内注入後のPAH患児 (体重の平均6.5kg, 範囲3.3-11.6kg) 10名から得られたシルデナフィルの血漿中濃度 (経口:29時点, 直腸内注入:64時点) を液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)により測定した。既報の小児経口投与PPKモデル (体重の平均3.6kg, 範囲2.0-5.1kg)および小児直腸内注入PPKモデル (体重の平均3.4kg, 範囲0.6-8.1kg) を用いて、対応する患児の投与量および体重から、各患児の採血時点におけるシルデナフィル血漿中濃度のシミュレーション値を得て、観測値と共にprediction-corrected visual predictive check(pcVPC)法により補正した後比較した。本研究は、後方視的研究として関連施設の倫理委員会の承認を受けている。
【結果・考察】pcVPC法により、対象の患児の内、経口投与15例および直腸内注入10例は、今回検討した既報の経口投与および直腸内注入のいずれの小児シルデナフィル PPKモデルの予測値とは若干の解離が認められた。経口投与時のピーク付近の血漿中濃度は,予測値よりも低値を示した。エンドセリン受容体拮抗薬との併用1例において、母集団からの解離は観測されなかった。
【結論】経口投与および直腸内注入後の既報小児PPKモデルは、当該観測値の測定において、精度は不十分であり新規モデルの必要性が示唆された。