【背景】乳幼児では検体採取に係わる制限があるため、臨床試験で薬物動態(PK)を評価するには、数理モデルとシミュレーション技術を活用して定量的な解析・予測を行うファーマコメトリクス(PMx)のアプローチが有効である。母集団薬物動態(PPK)モデルを用いて少数の採血時点から個別のPKパラメータを推定できることから、本研究では、海外試験データで構築されたPPKモデルに基づき、乳幼児を対象とした抗菌薬開発での採血時点の最適化を検討した。【方法】腎排泄型抗菌薬であるセフェピム(CFPM)及びシプロフロキサシン(CPFX)の既報の小児PPKモデルを用いて、それらのモデル構築で使用された海外試験(生後3.6カ月~3.1年の乳幼児)での採血時点を減らすことをシミュレーションにより検討した。PPKモデルのFisher情報行列に基づき、1例あたり4、3又は2つの採血時点をそれぞれ選択し、各シナリオにおける採血時点の妥当性を評価するため、海外試験と同じ患者数での仮想の臨床試験を1,000回行った。4、3又は2時点で採血するシナリオ(S4、S3又はS2)に加え、各患者でS3の採血時点のいずれか1時点でランダムに採血するシナリオ(S1G3)を検討した。PPKモデルに基づきモンテカルロ法で発生させた各シナリオでの採血時点の血中濃度を用いて、ベイズ推定したPKパラメータ(CL及びAUC)の推定精度及び治療の成功確率を算出した。【結果・考察】乳幼児を対象としたいずれの仮想の臨床試験においても、S4、S3及びS2の間でCL及びAUCの推定精度に大きな違いはなく、少ない採血時点からAUCを推定することができた。S1G3でもAUCを推定することは可能であったが、推定精度のばらつきが大きく、患者個々のAUCの推定値の解釈には注意が必要である。また、すべてのシナリオで治療の成功確率に大きな違いはなかった。以上のことから、腎排泄型抗菌薬の小児臨床試験を計画する際には、3又は4ポイントの採血時点を設定し、優先すべき1又は2ポイントの採血時点を特定することを提案する。【結論】本研究で用いたPMxアプローチにより、必要最小限のデータで、小児用医薬品の臨床開発を効率的に進めることができるとともに、実臨床における抗菌薬の投与設計にも応用可能な最大限の情報が得られ、適正使用のための議論が進むことが期待される。