【目的】
高齢化が進む現在、転倒による骨折は重大な問題であり、ポリファーマシーや転倒の誘因となる薬物[とくにベンゾおよび非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(ベンゾ系睡眠薬)などの中枢神経作動薬や降圧薬など]には注意を払うように指摘されている。実臨床現場において、大腿骨骨折を発症した患者の服用薬剤および背景要因を調査し、これらの関連などについて検討した。
【方法】
当院に2019年4月以降に大腿骨骨折で搬送された患者(交通事故や転落などの事故は除外した)100名(頚部、転子部各々51、49名)の服用薬剤および年齢、性別、体重(BMI)、認知症の有無、合併症などを調査した。
【結果・考察】
年齢は86.0±6.9(平均±標準偏差、範囲:73~99)歳、男女は各々15、85名、BMIは20.2±3.4、認知症「なし」が39名、「あり」が61名(軽度、中・重度が各々30、31名)で、BMI22未満の患者は77名、22~25は13名、25以上は10名で全例糖尿病か認知症合併であった。服用薬剤数は平均6.1剤(0~15剤、6剤以上は54名)で、合併症別には、統合失調症(3名)12.3剤、透析患者(7名)9.4剤、心不全・心房細動(16名)8.4剤、糖尿病(22名)8.3剤、パーキンソン病(7名)8剤だった。中枢神経作動薬(認知症治療薬を除く)が処方されていた患者は39名(1剤22名、2剤13名、5~6剤4名)で、うちベンゾ系睡眠薬は18名(ブロチゾラム6名、ゾルピデム5名、アルプラゾラム2名、エスゾピクロン2名など)、抗てんかん薬(バルプロ酸ナトリウムなど)7名、抗パーキンソン薬(レボドパなど)7名、抗うつ薬(セルトラリンなど)4名、トラゾドン5名、チアプリド4名、スボレキサント3名、プレガバリン3名などであった。他のカテゴリーでは消化器系61名、降圧薬60名、便秘44名、認知症26名、利尿薬25名、抗血小板薬23名、脂質異常症23名、糖尿病22名、骨粗鬆症21名、鎮痛薬20名、抗凝固薬11名などであった。
【結論】
大腿骨骨折には、超高齢、女性、低体重、認知症が大きく関与することが再確認された。過半数の患者が服用薬剤数6剤以上のポリファーマシーであり、合併症にて薬剤数は増加した。転倒・骨折の要因となりうるベンゾ系睡眠薬は約2割で処方されており、骨折リスクの高い患者への処方にさらなる注意、啓蒙が必要であると考えられた。