【目的】抗MRSA薬のリネゾリド(LZD)の重大な副作用である血小板減少は高頻度で発現し、治療継続の大きな妨げとなる。プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、ストレス性潰瘍予防を目的として重症患者の多くで使用されているが、LZDの血小板減少に対するPPIの影響は十分に検証されていない。本研究では後方視的調査及びFDA有害事象報告システム(FAERS)により、LZDの血小板減少に及ぼすPPI併用の影響を調査した。
【方法】2010年1月~2020年6月に大阪大学医学部附属病院においてLZD点滴静注用製剤を投与されたICU患者150名を対象とした。LZD開始時より血小板数が30%以上の減少あるいは100(×109/μL)未満まで減少を認めた場合に血小板減少と判定し、血小板減少に及ぼすPPIの影響について解析を行った。さらに、2014年7月~2020年12月に登録されたFAERSを用い、LZDの血小板減少に対するPPI併用の報告オッズ比(ROR)、95%信頼区間(CI)を算出した。
【結果・考察】血小板減少発症例(n=65)では未発症例(n=85)と比較し、ランソプラゾール(LPZ)併用割合が有意に高かった(62% vs 41%, P=0.021)。多変量解析より血小板減少に及ぼす有意な危険因子としてLPZ併用(OR:2.33, P=0.034)、LZD投与期間(OR:1.07, P=0.007)、クレアチニンクリアランス(OR:0.99, P=0.008)が挙げられたが、LPZ以外の PPIの併用は有意な因子とはならなかった(OR:1.84, P=0.292)。また、LPZ併用例(n=75)では非併用例(n=75)と比較し、LZD投与期間中における血小板数の最低値が有意に低く(P=0.003)、血小板減少発症までの期間が有意に短縮していた(P=0.020)。さらに、FAERS解析の結果から、LZD投与による血小板減少に対してLPZ併用で正のシグナルが検出されたが(ROR:1.64, 95%CI:1.25-2.16)、LPZ以外のPPIではシグナルは検出されず(ROR:0.97, 95%CI:0.80-1.18)、後方視的調査と矛盾しない結果が得られた。
【結論】LZD投与患者におけるLPZの併用投与は、血小板減少の危険性を増大させることが示唆された。